ID番号 | : | 05063 |
事件名 | : | 遺族補償等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 所沢労基署長(田中製作所)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 労災保険の特別加入者であった中小企業の会社の取締役が就業時間前にプレス機械についていた残かすをはがす作業をしていて過って機械を作動させて負傷した事故につき業務上の負傷に当るか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法7条 労働者災害補償保険法27条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 労災保険の適用 / 特別加入 |
裁判年月日 | : | 1983年4月20日 |
裁判所名 | : | 浦和地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和57年 (行ウ) 7 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | タイムズ512号159頁/労働判例412号26頁/労経速報1166号3頁/訟務月報29巻10号1993頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 佐藤進・ジュリスト830号141頁/青野覚・労働判例412号18頁 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-労災保険の適用-特別加入〕 一 Aは油圧プレス機械により電気製品の部品の組立、加工を目的とする有限会社B製作所の取締役であつて、労災保険法上の労災保険の特別加入者であつたが、昭和五三年一〇月二四日午前四時三〇分ころから同六時三〇分ころまでの間に、右会社狭山工場において油圧プレス機械の金型のバリ取り作業中、誤つて右機械を作動させて頭部をはさまれ、頭部れき断の傷害により死亡したこと、原告が労災保険法第一六条の七第二項、第一項第三号の受給権者であること、原告は昭和五四年八月三日被告に対し労災保険法に基づき遺族補償費、葬祭料等の請求をしたが、被告は同五五年三月一二日Aの死亡は業務上の災害とは認められないとの理由で右各保険金を給付しない旨の決定(本件不支給処分)をしたこと、〔中略〕 (二) 惟うに、労災保険は、労働者の業務災害に対する補償を目的とするものであるが、中小企業主及びその事業主が行う事業に従事する者の中には、業務の実態、災害の発生状況からみて労働者に準じて労災保険により保護するにふさわしい者の存する事実は否定し得ないところであつて、これらの者に労災保険への加入を認めたのが特別加入の制度であることはいうまでもないところである。換言すれば、特別加入制度は、事業主としての面と労働者としての面を併せもつているこれら中小企業主等の業務内容のうち、労働者として有する面に着目し、その側面に限り労働者に準じて労災保険による補償を与えたものと理解すべきものであり、このことは原告の主張するとおりである。ところで、中小企業主等の業務内容は、労働契約に基づき他人の指揮命令により他律的に定まる労働者の場合と異なり、自身の判断によりいわば主観的、恣意的に決定されることが多いから、特別加入者の業務の範囲については、中小企業主等の業務のうち労働者の業務に準じた業務内容に限定すべきことは当然であり、この場合労働者の業務に準じた業務内容を客観的に判定し、もつて中小企業主等の主観的、恣意的行為と区別するがためには、単にそれが労働者の業務と同種又はこれに準ずるものであるかどうかを考慮するだけでは足りず、事業施設内におけるものかということのほか、就業時間も労働者のそれに準じさせる必要のあることは見易い道理である。若し、原告の主張するように、特別加入者の行う業務は、それが特別加入申請の際明示された業務であつて、事業所施設内でなされる限り時刻、時間の如何に拘わらず、特命による労働者の労働と同視すべきであるとするなら、それは取りも直さず、中小企業主等の特別加入者の主観的、恣意的な行動により、その業務の範囲を労働者のそれより拡大するに至る結果、労働者に準じて中小企業主等を保護しようとする特別加入制度の趣旨を没却することになつて不当である。 そこで、特別加入者の業務災害の認定については、労災保険法第三一条の規定によつて委任された同法施行規則第四六条の二六において、労働省労働基準局長の定める基準によつて行うものとし、そしてこれを受けて、発せられた「特別加入者に係る業務上外の認定基準等の改正について」と題する同局長通達(昭和五〇年一一月一四日付基発第六七一号)によると、特別加入者の業務遂行性を認める範囲を、労働者のそれに準じて次のように定めた(本件に関係のないものを除く。)が、この趣旨が誤りであるとか、不適切であると認める余地はない。 (1) 特別加入申請書別紙の業務の内容欄に記載された所定労働時間(休憩時間を含む。)内において、特別加入の申請に係る事業のためにする行為(当該行為が事業主の立場において行う事業主本来の業務を除く。)及びこれに直接附帯する行為(生理的行為、反射的行為、準備・後始末行為、必要行為、合理的行為及び緊急業務行為をいう。)を行う場合。 (2) 労働者の時間外労働に応じて就業する場合。 (3) 就業時間(時間外労働を含む。)に接続して行われる準備・後始末の業務を特別加入者単独で行う場合。 (4) 右(1)、(2)及び(3)の就業時間内における事業場施設の利用中及び事業施設内での行動中の場合。 (三) 進んで本件についてみるに、Aは被災当日午前四時三〇分ころから一五〇屯油圧プレスに取り付けた金型のバリ取り作業中、同日午前六時三〇分ころ、誤つて右プレスを作動させ頭部を挟まれてこれをれき断して即死するに至つたことは、前叙のとおりであるが、右の作業は、従業員が就業後直ちにプレス作業に従事できるよう予めプレスの金型に付着した残滓を剥して置く必要があることによるものであつたとしても、右作業は、B製作所の就業時間午前八時より一時間三〇分も以前のことであつて、しかも、右作業は、特別加入申請書に記載しなかつたAの業務たる得意先回りを早々にするための便宜上なされたもの、すなわち当日東京都板橋区内の得意先「C」に納品し、同日午前七時三〇分までに同都港区内のD製作所に赴くためになされたものであることは、前に説示したとおりであるから、右は、前示通達に定める、就業時間における特別加入申請に係る事業及びこれに直接附帯する行為、就業時間内における事業場施設の利用中及び事業施設内での行動中の場合並びに労働者の時間外労働に応じて就業する場合のいずれにも該当しないことは明らかであり、また、右バリ取り作業と就業時間との間に得意先回りが介在したのであるから、右作業は、もとより右通達にいう就業時間に接続してなされた準備行為にも該らない。 (四) 以上のとおり、本件におけるAの死亡は、業務上の災害によるものとは認められないから、これを業務上の災害に該当しないとしてした本件不支給処分には、所論のような違法は存しない。 |