ID番号 | : | 05064 |
事件名 | : | 遺族補償費不支給処分取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 札幌労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 交通事故により受傷した労働者が長期の療養中にカンブンケルを併発し死亡したケースで、当該死亡が業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法79条 労働者災害補償保険法12条の8 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 通勤途上その他の事由 |
裁判年月日 | : | 1983年6月20日 |
裁判所名 | : | 札幌高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和55年 (行コ) 2 |
裁判結果 | : | 取消 |
出典 | : | タイムズ504号141頁 |
審級関係 | : | 一審/札幌地/昭55. 2.25/昭和51年(行ウ)3号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-通勤途上その他の事由〕 本件カルブンケルの発生についてみるに、その発生の部位には前記のとおり本件交通事故による傷害が存しなかつたのであるから、右事故と直接の因果関係の存在しないことは明らかである。 しかしながら、前記二・三に認定した事実及び当審鑑定人Aの鑑定の結果を総合すると、亡Bは、本件受傷に伴う長期療養が全身的な消耗状態を惹起し、極めて易感染性の状態となつて本件カルブンケルを誘発し、その結果敗血症を併発死亡するに至つたものと推認され、一般に、疾患に罹り、臥床状態にあるときには、疾患自体の影響、食欲不振等により、健康時に比して心身に種々の衰弱をきたし、殊に長期臥床並びに全身衰弱状態においては皮膚感染症を惹起し易いことは公知の事実であり、したがつて、亡Bは、右感染症の重篤な一態様であるカルブンケルに罹患するに至つたものというべく、本件受傷と右カルブンケルの発生との間には相当因果関係があるものと認めるのが相当である。この点につき乙第一九号証中には、「カルブンケルを必然的に併発するがごとき全身的要因としての栄養不良状態ないし免疫低下状態にあつたかどうかは疑わしい。」(乙第二七号証も同旨)旨の記載があるが、右書証中の亡Bの衰弱状態についての判断は、前記のとおり採用できず、また原因と結果との間に存在すべき関係は「相当因果関係」の存在をもつて足りるものであつて、「必然的」に発生することは要しないものであるから、カルブンケルが稀にしか発症しない皮膚感染症であるからといつて右認定と矛盾するものではないし、また右証拠も「衰弱状態があつて、身体の清拭などが不十分であり、局所皮膚を清潔に保つことができなかつたため、局所的要因が作用してカルブンケル発症の素地を形成した可能性は否定できない。」としているのであつて、前記認定に反するものではない。 また右書証は、本件カルブンケルの発生とその当時存在していた急性肝炎との間に因果関係がある旨を推測しているが、前記のとおり亡Bの衰弱状態及び易感染性との間に相当因果関係の存在が認められるので、肝炎の存否は本件の結論に影響を及ぼすものではない(もつとも、亡Bが急性肝炎と診断され、その治療を受けていたことは前記認定のとおりであつて、急性肝炎の初期に顕著に上昇するGP-Tの数値(この点は当裁判所に顕著である。)は、六月二八日の検査までは、五回の検査の結果がいずれも正常値の範囲内にあつたことを考慮すると、本件受傷による入院を契機に発生したものと考えるのが相当であつて、しかも全証拠によるもその直接の原因は明らかでない。) なお、全証拠によるも亡Bが糖尿病に罹患していたものと認めるには足りない。 五 そうすると、亡Bの死亡は業務上の事由に基づくものというほかはないから、被控訴人は、本件各傷病が亡Bの死亡に及ぼした寄与度に応じて遺族補償費を支給すべきものであると認められる。 |