ID番号 | : | 05070 |
事件名 | : | 労災就学援護費不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 三田労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | スチレン中毒により労災保険法に基づく傷病補償年金を受給している者が長女が大学に入学したため労災就学援護費の支給を求めたところ基準を充たしていないとして拒否されたために右不支給処分の取消を求めた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法2条 労働者災害補償保険法23条1項2号 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / リハビリ、特別支給金等 |
裁判年月日 | : | 1983年12月12日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和56年 (行ウ) 76 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | タイムズ525号194頁/労経速報1173号13頁/労働判例424号63頁/訟務月報30巻6号979頁 |
審級関係 | : | 控訴審/05079/東京高/昭59.11.26/昭和58年(行コ)98号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-リハビリ、特別支給金等〕 3 以上によれば、すくなくとも労災法上は、労働福祉事業を行うか否かは政府の自由な裁量に委ねられており、その限りにおいては被災労働者の具体的権利義務には何らの関係もないものというべきである。このことは同事業の一つである援護費の支給についても同一であるが、これについては、前記2のとおり要綱と要領によって現実に実施されており、このように現実に実施されている限りにおいては、被災労働者の具体的権利義務に何らの関係がないものということはできないものというべきである。すなわち、被災労働者が要綱、要領に定める前記の支給要件を具備するとして援護費の支給申請をしてきた場合、労働基準監督署長はこれが所定の支給要件を具備しているか否かの確認をしなければならず、ここにおいて支給要件を具備するものと確認されることによって被災労働者に具体的な援護費支給請求権が発生し、逆にこれを具備しないものとされることにより右の請求権が否定されることになるものであって、右はまさに労働基準監督署長がその与えられた優越的地位に基づいて一方的に行う公権的判断であり、また、その性質上その自由裁量に委ねられたものということはできないものというべきである。確かに右は前記通達である要綱、要領に基づくもので、法律にその直接の規定は存しないものの、前記1のとおり労災法にその一般的規定が存する以上は、右労働基準監督署長の地位、権限や援護費支給請求権はいずれも法律上のものであると解するを相当とする。 労働福祉事業は保険給付と並んで労災保険制度の主要な部分を形成している労災保険の附帯事業であり、その費用も一部少額の国庫補助金を除いて事業主の負担する労災保険料(附加保険料)によっているもので、(証拠略)によれば、労働福祉事業の中でも、援護費は特別支給金と並んで極めて保険給付に近い性格を有しており、本来は共に保険給付の一部として構成すべきものであるとされていることが認められ、この認定に反する証拠はない。そうだとすると、現行法の解釈としても、援護費の支給、不支給に関する決定についても、それが「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とされている保険給付に関するそれとできうる限り同一に取扱うことがその性格に最も適合することになるものというべきである。労災法は保険給付については特別の不服申立手続を設けている(三五条一項)が、援護費の支給、不支給についてはかかる特別の規定を設けていない。しかし、行政不服については一般法である行政不服審査法があり、特別法において特別の不服申立手続を定めない限り、右一般法である行政不服審査法が適用される(同法一条)ところから、右の労災法の規定の有無だけをもって両者を別異に取扱うことの合理的理由とはなし得ないものというべきである。また、援護費の支給について予算上の制約があることはむしろ当然のことであり、かかる制約上一般的に労働福祉事業としての援護費の支給を行わないということであればともかく、現に前記要綱、要領に基づいてこれを実施しながら、具体的な援護費の支給申請に対し、それが所定の支給要件を具備しているにかかわらず、予算上の制約があるとしてこれを支給しないものとすることは許されないものというべきであるから、予算上の制約があることをもって援護費の支給、不支給に関する決定が全くの自由裁量に委ねられた単なるサービス行政であって、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」ではないとすることはできないものというべきである。以上の結論に反対の趣旨の(証拠略)の記載部分は叙上のところから当裁判所の採用しないところである。そして、他に本件処分が「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」ではないとする合理的理由を見出すことができない。 二 以上説示のとおりで、本件処分は、行政庁である被告の処分その他公権力の行使に当たる行為であるというべきであるから、その取消しを求める本件訴えは適法である。 |