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ID番号 05084
事件名 遺族補償年金等不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 苫小牧労基署長事件
争点
事案概要  通算一九年にわたって粉塵の飛散する坑内労働に従事してきた労働者の肺がんによる死亡につき業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法79条
労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法16条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 1985年6月26日
裁判所名 札幌高
裁判形式 判決
事件番号 昭和57年 (行コ) 2 
裁判結果 取消認容
出典 労働判例463号83頁/訟務月報32巻3号638頁
審級関係 上告審/最高三小/昭61.10. 7/昭和60年(行ツ)176号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 亡Aの死亡が労災法第一二条の八第二項、労働基準法(以下「労基法」という。)第七九条、第八〇条に規定する「労働者が業務上死亡した場合」に該当するか否か、具体的には亡Aの死因である肺がんが労基法第七五条第二項、昭和五三年労働省令第一一号による改正前の労基法施行規則(以下「労基規則」という。)第三五条第三八号に規定する「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当するか否かが本件の主たる争点となるところ、粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症(以下「じん肺」という。)については一般に業務起因性が認められているから(同規則第三五条第七号)、亡Aが粉じんを飛散する場所における業務に従事していたためじん肺に罹患していること及びこのじん肺と前記肺がんとの間に因果関係の存在することが認められる場合には、右肺がんについても業務起因性が認められることとなる。
 〔中略〕
 本件においては、B証人とC証人はともに亡Aの病理組織標本を検討して前記のように相異なる判断に到達しているものであるところ、C証人は病理学を専攻し、当時すでに二千数百体を超える剖検の経験を有しているのであるから(前記C証言により認める。)、仮に、B証人が指摘する典型けい肺よりも線維化の程度が弱い粉じん結節が存在していたものとすると、通常これを見落とすことは考えられない(全証拠によるもこれを見落としたと解すべき特別の事情は認められない。)。また、前記D証言によると、前記のD証人の判断は、二〇年以上の長期に亘りじん肺の臨床研究を専門としてきた同証人が、読影診断に至適な条件で撮影され仕上げられたエックス線写真につき、標準フィルムを参考にしながら読影した結果によるものであることや、亡Aが過去においてけい肺と診断されたことがなく、前記E労災病院における心肺機能検査の結果が正常と判定されていること(いずれも〈証拠略〉により認められる。)のほか、B証人は非典型けい肺に属するじん肺の根拠としたけい酸含有率について一般論から推認し、また、エックス線写真の読影にあたっても標準フィルムと照合せずに自己の直感で行なった旨述べているのみならず、当然に提供されている筈の病理組織標本の一部について、これが存在していなかった旨供述していること(いずれも原審及び当審における証人Bの証言により認める。)などに照らすと、亡Aにおいて長期に亘り前記のとおりの職業に従事していること及びB証人が昭和二二年以来じん肺の臨床病理学を専門に研究し、豊富な経験を有する医師であることを斟酌しても、なお、その判断及びこれと同旨の見解はいずれも直ちにこれを採用することはできないし、他に亡Aにじん肺の存在を認めるに足りる証拠はない。
 3 亡Aの死因である肺がんと前記炭粉沈着症との間の因果関係の存否については、(証拠略)は、いずれもこれを肯定するかの如くであるが、右各証拠もその可能性を否定できないというにすぎないものであって、全証拠によってもその間に相当因果関係があるものと認めることはできない。
 4 右のほか、亡Aの右肺がんが業務に起因すると認めるに足りる証拠はない。