ID番号 | : | 05093 |
事件名 | : | 通勤災害非該当認定処分取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 中学臨時講師通勤災害事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 町立中学の音楽担当の臨時講師で音楽祭に参加する生徒の合唱の練習指導をしていた者が年休を取得したうえで、指導の実をあげるために、自宅から原付自転車で他市内にあるピアノ教師方におもむき、ピアノ伴奏のレッスンを受けた後予定されていた合唱の練習の指導のため原付自転車で同校に向う途中の事故で死亡したケースで通勤災害に該当するか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 地方公務員災害補償法2条2項 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 通勤災害 |
裁判年月日 | : | 1986年12月10日 |
裁判所名 | : | 高松高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和60年 (行コ) 6 |
裁判結果 | : | 上告 |
出典 | : | 行裁例集37巻12号1397頁 |
審級関係 | : | 一審/高知地/昭60.10.24/昭和59年(行ウ)4号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-通勤災害〕 三1 ところで、法の定める通勤災害補償制度は、通勤途上の災害について補償を行うこととしているものであるが、その保護の対象となる災害の範囲は、一般的に通勤と称される行為の過程で生じたすべての災害に及ぶものではなく、法二条二項、三項の要件を満たす「通勤」によるものに限られている。 すなわち、通勤自体が公務の性質を有する災害は公務災害として保護されるから「通勤」には含まれないほか、住居と勤務場所との間の往復に当たらないもの、すなわち住居以外のところから勤務場所へ通うような場合は、これに含まれない。そこで、例えば勤務場所が複数存在するような場合においては、職員が住居から最初の勤務場所へ至る間の往復行為は「通勤」に当たるが、その後、勤務場所の間を移動する行為は、これには当たらないものと解される。 また、「通勤」というためには、それが勤務のための往復であることが必要であり、かつ、合理的な経路及び方法によるものでなければならない(法二条二項)。そこで、住居と勤務場所を往復する途中でそれ以外の行為を行い、往復行為を中断した場合には、右の中断の間は「通勤」に含まれないこととなるが、法は、それだけでなく、その後の往復行為についても、右の「通勤」として取り扱わない旨を定め(同条三項本文)、例外的に、中断が日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要なやむを得ない事由により行うための最小限度のものであるときだけは、その中断の間を除き、その後の往復行為も「通勤」として取り扱うとしている(同条三項ただし書。法は、合理的経路から逸脱した場合についても、同様の規定を置いている)。このような規定は、一般に、中断がある場合には、その往復行為が、勤務のためにするのか中断時の当該行為をするためなのかということとの区別がつけ難くなり、中断の前後を通してあくまで一個の行為とみて住居及び勤務場所をその始点終点ととらえるべき理由に乏しくなるということなどを考慮したものと考えられる。 したがつて、このような法二条二項、三項の定義規定からすれば、法にいう「通勤」には、右の日用品の購入その他これに準ずるやむを得ない場合を除き、その途中において、往復を中断する行為が介在することは予定されていないということになる(なお、通勤の途中でタバコや新聞を購入するなどの通常の通勤に随伴するささいな行為については、ごく短時間に限つてこうした行為が行なわれた場合には、右にいう中断と解するまでの必要がないこととなろう。)。 そうだとすると、特定の経路が合理的であるかどうかという判断について、通勤途中で往復を中断して行う行為の内容を斟酌して経路の合理性を判断するようなことは法の予定するところとはいえず、右判断に当たつては、住居と勤務場所との間に存在する各経路の距離・所要時間・所要経費・その他の道路事情等を総合的に考慮すべきであると解するのが相当である。 2 本件事案では、Aが、任命権者である高知県教育委員会に対し、毎日の通勤の経路として、原動機付自転車を利用して佐川町の自宅から越知町(略)を経由して同町(略)所在の勤務校に至る約一六キロメートルの経路(通勤届の経路)による旨を届け出ていることは、当事者間に争いがなく、前掲乙六号証の一九、成立に争いがない乙四号証の四及び原審証人Bの証言並びに弁論の全趣旨によれば、Aは、右の通勤届を提出した昭和五五年九月中旬ころからは、毎日、原動機付自転車を運転して右の通勤届の経路によつて通勤していたこと、その所要時間は片道約四五分であること、右通勤届の経路は、Aの住居のある佐川町から勤務校のある越知町(略)に至る場合の経路としては最も普通に利用されている経路であることが認められる。 これに対し、本件災害時にAがとつた本件経路は、前記二の2の(四)ないし(六)に記載したとおりであり、これらの事実及び前掲乙五号証、同六号証の一九及び原審証人Bの証言によれば、本件経路は、その全長は約七〇キロメートルあり、住居から事故地点まででも原動機付自転車によれば二時間以上を要すること、通勤届の経路とは、全く重なる箇所はないこと、Aがこうした経路をとつた理由は、専ら高知市入明町のC宅へ立ち寄ることにあり、通勤届の経路が通れないというような特別な事情が存したことによるものではないことが認められる。 合理的な経路は必ずしも一つに限る理由はないが、右の事実関係からすれば、通勤届の経路は、Aの自宅と勤務校を結ぶ合理的な経路と認められるのに対し、本件災害時にAがとつた本件経路は、右の通勤届の経路と比べて、著しく距離が長く、かつ所要時間もはるかに長時間を要するものであつて、合理的な経路とは到底認め難い。 〔中略〕 なお、公務災害と通勤災害は、使用者の支配下にある行為か否かという点で性格を異にし、そのため、服務の関係では、そのいずれに該当するかによつて取扱いが異なること、法は、公務災害と通勤災害を各別に定義し、それぞれについて所定の給付を行うとしていること(法一条ほか)、通勤災害については公務災害と異なり、職員にも一部の負担金を課していること(法六六条の二)などからすると、通勤災害の認定請求がされた場合には、処分庁は、仮に公務災害に該当すると判断しても、公務災害を認定する余地はなく、通勤災害として非該当の認定を行うほかはないと解される。したがつて、本訴においては、本件災害が公務災害に該当する余地があつたかどうかまでを検討することは要しない。 |