ID番号 | : | 05097 |
事件名 | : | 遺族補償費等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 木更津労基署長(新日鉄君津製鉄所)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | スパイラル鋼管の溶接部のエックス線透視による非破壊検査に従事してきた労働者の急性骨髄炎につき、業務に起因するものか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法75条 労働基準法施行規則35条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 |
裁判年月日 | : | 1987年2月23日 |
裁判所名 | : | 千葉地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和54年 (行ウ) 10 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例495号56頁/訟務月報33巻9号2342頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 佐藤進・ジュリスト936号147~149頁1989年6月15日 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 一般に業務起因性があるというためには、業務と疾病との間に相当因果関係がなければならず、相当因果関係があるといいうるためには、業務が疾病の条件となっただけでは足りず、最有力な原因である必要はないものの、相対的な関係において有力な原因であることを要するというべきである。 右相当因果関係すなわち業務起因性の立証責任について、原告は、まず、一般的に、労働者側において、「疾病にかかった労働者が、その疾病の原因と認められる有害業務に従事していた事実」を立証すれば足り、これを否定する側において、「その疾病が業務によらないこと若しくは他の原因によって生じたものであること」の証明を要すると主張するが、原告のいう、「労働者が、その疾病の原因と認められる有害業務に従事していた」という点において、既に労働者側に具体的な業務起因性の立証が求められていると解すべきであるので、原告の右の主張はこれを採用することができない。 原告は、更に、特に白血病において、前記のように、労働基準法施行規則別表第一の二の七、10に白血病が掲げられていること、また後記三2のような白血病と放射線との特殊な関係に照らし、「電離放射線にさらされる業務に従事した労働者が白血病に罹患した事実」さえ証明されれば、特段の事情のない限り因果関係を肯定すべきであると主張する。 しかし、右施行規則別表の列挙病名は、経験則上一般的に因果関係の認められるものを掲げたという意味に止まり、具体的な場合における因果関係まで推定して、その立証責任を免除したと解することはできない。 また、白血病と放射線との関係は確かに後記三2のとおり特殊ではあるが、同所にもあるように、これはあくまでも放射線防護の観点からの仮定に過ぎないもので、一〇〇レム未満の被ばく線量による白血病発症について疫学的実証はないというのであるから、これを理由に業務と白血病との具体的な因果関係を推定することは、他の疾病の場合の判断との衡平上妥当でない。 よって、本件においても、業務起因性の立証責任は労働者側である原告にあると解すべきであり、これと異なる原告の見解は採用できない。 以下、本件において、Aの死亡の原因となった急性骨髄性白血病が、業務を相対的な関係において有力な原因として発症したといえるか否かを諸般の経過・事情から検討する。〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕 以上に認定した事実等を総合して、Aの死亡した原因である白血病が、本件業務を相対的な関係において有力な原因として発症したといえるか検討する。 まず、Aの本件作業による被ばく集積線量は、前記六のとおり、三〇ミリレム以上一〇六〇ミリレム以下であって、前記八のとおり、労働者にとり相当有利な判定方法を採用したといえる新通達の認定基準においても、業務上の疾病と認める相当量に該当しないことが認められる。 一方、Aの昭和三九年六月から昭和四二年七月までの私病による医療被ばく集積線量は、一万〇八六〇ミリレムであって、本件作業による最大被ばく線量一〇六〇ミリレムの約一〇倍に達する値である。 また、Aの、訴外会社の定期健康診断におけるエックス線被ばく集積線量は、前記七2のとおり、入社以来のもので一〇五四ミリレムに達するが、右健康診断は法定のものとはいえ、労働者の利益のために設けられた制度であるから、この被ばく線量を直ちに業務上のものとみなすことは妥当でないというべきである。したがって、Aの業務被ばく線量を前記一〇六〇ミリレムに右一〇五四ミリレムを加えて算出する見解には組しないが、仮にそうとしても、合計は二一一四ミリレムとなり、前記の私病による医療被ばく線量のなお約五分の一の値である。 更に、前記三3によれば、放射線被ばくによる白血病発症の潜伏期間はほぼ六年以上で、五年以下の発症は疫学的な証明がないと認められるところ、本件においては、前記四、五によれば、Aが最初に本件作業に実際に携わったのは、昭和四四年一月三日であり、かつ、最初に白血病と診断されたのは、昭和四八年五月一〇日であるから、本件作業による被ばくから白血病の発症までは、約四年四か月以下の期間しか経過していないのであって、前記潜伏期間とそごがある。 以上の諸点を総合して考えると、Aの本件作業によるエックス線の被ばくが、Aの死亡する原因となった白血病の、相対的な関係において有力な原因であったと認めるには、未だ不十分といわなければならない。 一〇 結論 そうすると、本件において、Aの死亡が業務上の疾病による死亡に当たるということはできず、これと結論を同じくする被告の本件処分には、違法な点はないから、右処分の取消しを求める原告の請求は理由がない。 |