ID番号 | : | 05098 |
事件名 | : | 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 四日市労基署長(日本運送)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 本態性高血圧症にかかっていた長距離トラックの運転手の高血圧性脳内出血による死亡につき業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法79条 労働者災害補償保険法7条1項 労働者災害補償保険法16条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1987年2月26日 |
裁判所名 | : | 津地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和57年 (行ウ) 4 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例493号27頁/労経速報1292号3頁 |
審級関係 | : | 控訴審/05203/名古屋高/昭63.10.31/昭和62年(行コ)4号 |
評釈論文 | : | 小野幸治・労働法律旬報1167号41~45頁1987年5月25日/畔柳正義・昭和62年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊677〕388~389頁1988年12月 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 被災者の死亡につき労働者災害補償保険法一二条の八所定の遺族補償給付及び葬祭料を受給するためには、被災者が「業務上死亡した場合」でなければならないから、被災者の高血圧性脳内出血による死亡と業務との間に相当因果関係がなければならず、相当因果関係があるというためには、当該業務がその死亡につき最も有力な原因であることまでは要しないが、少なくとも相対的に有力な原因であることが必要であるというべきである。そこで、この点につき前記認定事実に基づいて被災者の場合を検討すると、被災者(死亡当時四九歳)の死亡原因は高血圧性脳内出血であり、被災者は当時既に高血圧症に罹患しており、高血圧症そのものが業務に起因して生じたものとは認め難いところであるけれども、被災者の従事していた長距離貨物運搬業務は深夜勤務を伴う長時間の不規則労働が常態の、厳しい肉体的・精神的緊張と疲労をきたす健康者にとってさえ激務といえるものであり、高血圧症を増悪させる要素をもつものであるところ、本件天草運行は訴外会社四日市支店における路線トラックの業務の中では最も長距離の業務の一つであり、被災者は、訴外会社四日市支店を出発しAケミカルに到着するまでの間、一〇分ないし三〇分間の休憩四回や仮眠二回を挾んで二二時間余約一〇〇〇キロメートル乗務し、その間直接一一時間三五分も高血圧症の増悪をもたらす運転に従事し、しかもAケミカル直前の走行困難な道路を被災者が二時間一〇分かけて運転し、Aケミカルに到着するや直ちに貨物自動車荷台上においてBと協力して二〇〇キログラム入りドラム缶五〇本を横に倒し荷台に横づけされたフォークリフトまで転がして行く重労働の荷卸し作業に約四〇分間従事し、右作業終了と同時に休息もせず帰路につき、カーブの多い道路をB運転の貨物自動車に同乗して走行し、振動及び横振れの影響を受けたことが誘因となって死因となった脳出血が発症したこと、そして、被災者は午前一一時三〇分頃以後午後零時〇五分頃までの間に脳出血の前駆症状(気分が悪くなった)を自覚したのであるから、この段階で安静状態に保ち医師の適切な措置を受けていれば脳出血にまで至らなかった可能性が十分あったにもかかわらず、本件天草運行に従事して土地不案内の遠隔地を走行中であったために、なるべく早く鳥栖営業所に到着して積荷作業をしなければならぬと考えたこと、Bとコンビの乗務であるため自分の都合で運行が遅延するとBに迷惑を掛けることになるのでできる限り我慢したこと、Aケミカルへの運行は二度目にすぎず当該地方の事情に暗く被災者の健康状態を気軽に医師に診せる状況にはなかったため知合いがいる鳥栖営業所へともかく行こうと考えたこと、乗車勤務中であったために車酔いと誤認したことなどから、安静にすることも医師の診察も受けることもなく、苦しい体に鞭打って無理に乗車勤務を継続したため、連続乗車及び重労働の荷卸し作業によって亢進した血圧が下らず車両の震動や横振れの影響を受けて血圧が亢進を続け遂に高血圧性脳内出血を発症させるに至ったものであることが認められ、以上の諸事情を総合して考えると、被災者の高血圧性脳内出血による死亡にとって被災者の遂行した業務は相対的に有力な原因であると認めざるをえないので、業務と被災者の死亡との間には相当因果関係があるというべきである。 |