ID番号 | : | 05099 |
事件名 | : | 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 中野労基署長(旭運輸)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | ブロックの積降ろし作業に従事していたトラック運転手のくも膜下出血に起因する急性心不全による死亡につき業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法79条 労働者災害補償保険法7条1項 労働者災害補償保険法16条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1987年4月23日 |
裁判所名 | : | 長野地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和57年 (行ウ) 5 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例498号57頁 |
審級関係 | : | 控訴審/05250/東京高/平 1.10.26/昭和62年(行コ)47号 |
評釈論文 | : | 和田清二・労働法律旬報1169号18~22頁1987年6月10日 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 Aの直接の死因たる急性心不全の原因である本件疾病は、くも膜下出血を更に分類した場合、くも膜下腔にある血管の破裂の原因が、外傷や症候性のものでなく、医学的に解明されていない特発性くも膜下出血に属する蓋然性が高いところ、特発性くも膜下出血は、脳動脈瘤の破綻によって生ずるが、その脳動脈瘤の形成、進展、破綻の誘発原因は、肉体的運動、精神的緊張等に基づく一過性の血圧亢進であり、右のような誘発原因のない自然破綻は、動脈瘤が相当程度進展している場合生起するものであることが認められる。 ところで、Aの本件疾病(特発性くも膜下出血)が業務に基づいて発症したものと判定されるためには、その業務と疾病との間に相当因果関係がなければならず、相当因果関係があるというためには、業務と疾病との間に条件関係があるだけでは足りず、当該疾病の原因のうち業務が相対的に有力な原因であることを要し、かつこれで十分であって、業務が最も有力な原因であることまでは必要でないと解すべきである。 これを本件についてみるに、前記認定のAの急性死に至る経過、右認定の本件疾病の特質に証人Bの証言を総合すると、Aが従事していた間知ブロックの手降ろし作業は重筋労働の性質を有し、一般の労働に比し過重であり、血圧の亢進を招き易いものであること、Aは、死亡するまでの直前五年近くにわたり、右の手降ろし作業を包含する業務に従事してきたとはいえ、その頻度、回数からいって、手降ろし作業について熟練や慣行化までは見られず、平素の業務は、トラックの運転とクレーンを使用した荷降ろしを主とする技術労働の性質を有するものであったこと、当日Aが本件現場でした平常より密度の高い作業と平常より過重な負担のかかる間知ブロックの手降ろし法は優に一過性の血圧亢進の誘因たりうることが認められるから、本件現場における間知ブロックの手降ろし作業によりAに一過性の血圧亢進が生じ、これによってかねて形成されていた脳動脈瘤が破綻し、本件疾病の発症に至ったもので、これまで認定してきた、かねてAが従事してきた業務の内容、同人の勤務状態、健康状態等から想定される本件疾病のいくつかの原因、素因のうち、Aの死亡直前における本件現場での業務の遂行が、相対的に有力な原因の一つであると認めることができる。 そうすると、Aの業務と本件疾病との間には相当因果関係があり、本件疾病には業務起因性を認めることができるというべきである。なお、本件にあっては、Aに脳動脈瘤の形成があったこともまた相対的に有力な原因の一つで、本件疾病につき前記業務の遂行と共働原因となっていることは明らかであるが、このような共働する原因の存在は、相当因果関係を肯定するにつきなんら妨げとならない。 |