全 情 報

ID番号 05100
事件名 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 苫小牧労基署長(厚真建設運輸)事件
争点
事案概要  小型貨物自動車による小荷物の運搬業務に従事していた労働者の心筋梗塞による死亡につき業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法79条
労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法16条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1987年5月21日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (行ウ) 2 
裁判結果 棄却
出典 労働判例498号30頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 業務上の死亡と言うためには、疾病による場合についていえば、業務に基づく疾病に起因して死亡した場合、即ち業務と疾病、疾病と死亡との間にそれぞれ相当因果関係が認められる場合であることが必要であり、客観的にみて、当該業務に、当該疾病ひいては死亡を惹起する危険性が認められることが必要である。ところで、訴外Aの直接死因が心筋梗塞であったと推定されることは当事者間に争いがないから、以下には、訴外Aの業務と同人の心筋梗塞との因果関係について検討する。
 〔中略〕
 三 以上の事実によれば、訴外Aの業務は、時に引越業務等重労働に属する態様も存したものの、主体は待機時間の多い、手荷物等運搬という軽作業であって、その業務自体に客観的に心筋梗塞を引き起こすような危険性は認められないというべきである。そして、左大腿に金属アームを挿入しているという身体的ハンディを有したとはいえ、これも日常の業務には全く支障のない程度に回復しており、その他のじん肺、視覚等の障害も業務に支障が存したとは認められず、訴外Aの身体状況が、特にその業務の危険性を高めているということもできない。また、前記認定の死亡前日ないし当日の状況に照らせば、心筋梗塞発症時、特に過激な業務が行われていたわけでないことも明らかである。以上の点に加え、前記認定の訴外Aには高血圧の傾向の存したことを総合して考えれば、結局、訴外Aは、業務遂行中にたまたま心筋梗塞を発症し死亡したものと認めるのが相当である。
 この点につき、(証拠略)、証人Bの証言中には、業務上の過労による自律神経失調状態が継続し、交感神経興奮性の高進したごく軽度の刺激で血管れん縮を起こしやすい不安定な状況にあったことが、発病と死につながったと述べる部分があるけれども、前記認定事実に照らし、さほどの過労を蓄積させるような業務内容であったとは認められず、右意見を採用することはできないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
 したがって、訴外Aの心筋梗塞による死亡を業務上の事由によるものとは認められないとしてなした被告の本件処分は、適法なものということができる。