全 情 報

ID番号 05101
事件名 障害補償給付支給決定取消請求事件
いわゆる事件名 広島労基署長(久保田建設等)事件
争点
事案概要  労基署長の障害補償等級決定処分につき審査請求期間を経過した後に審査請求がなされたために却下され、その後処分取消の請求が行なわれた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法35条
労働者災害補償保険法37条
体系項目 労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 審査請求との関係、国家賠償法
裁判年月日 1987年6月9日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (行ウ) 12 
裁判結果 却下
出典 労働判例501号40頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-審査請求との関係、国家賠償法〕
 本訴において原告がその取り消しを求める処分は、労働者災害補償保険法三五条一項に規定する決定であるから、同法三七条により、労働者災害補償保険審査官に対する審査の請求及び労働保険審査会に対する再審査の請求を経るのでなければ、その取消しの訴えを提起し得ないものであるところ、右の審査請求及び再審査請求等は、それにより審査機関においてその処分の適否ないし当不当を直接判断の対象となし得る適法な請求でなければならないものであって、右の審査請求などが審査期間を徒過する等により不適法なものであり、それを理由として審査請求が却下された場合においては、同条に定める裁決を経たものとはいえないものであって、その取消しを求める訴えは、不適法として却下を免れないものである。
 〔中略〕
 2 ところで、前記認定事実によれば、原告は、昭和五六年六月二五日本件処分にかかる通知に接し、かつ本件処分に基づいて追加給付を受けた障害補償給付金を右同日に受け取ったものであるから、右同日には、第一次処分時において認定された障害等級(一四級)より上位の障害等級に該当する旨の認定がなされ、障害等級の変更があったことは、これを知ったものであり、ただその障害等級が第一二級であることについて誤認したに過ぎないものと解される。
 そうだとすると、原告は、本件処分がなされたこと自体は、これを右の昭和五六年六月二日に知ったものであり、ただその内容について一部誤認があったというに過ぎないものであるから、原告は右同日には本件処分があったことを知ったとするに妨げないものと言うべきである。原告は、本件において審査請求期間は、原告が処分内容を現実に了知した日の翌日から起算すべきであると主張するが、審査請求期間の起算日は処分があったこと自体を知った日(但しその翌日)をいうものであって、その際にその処分が不利益である旨の認識を欠いていたときは、その認識を欠いた事由ないしそれに至った事情が審査請求期間徒過の正当な理由となり得るかについて考慮すれば足り、審査請求期間の起算日を別異に扱うべき事由たり得るものとは解し難い。
 〔中略〕
 前記認定事実によると原告は、自らが決定書の記載内容を読解し得ぬことから、信頼するに足ると自らが判断したAにその代読方を依頼し、右A上の過誤によって、処分内容を誤認するに至ったものである以上、これによって生じた不利益は原則として自ら甘受すべきものであって、右の事情が直ちに期間徒過の正当事由にあたるものということは困難である。
 のみならず、本件処分の通知(〈証拠略〉)には、原告において障害等級第七級に認定されたものとの誤認を生じさせるような記載はみられない(むしろ、前示のとおり障害等級は第一二級である旨を明示する記載のあるものである。)そうすると、原告が、本件処分にかかる前記通知書を受領した際に、更めて障害等級の認定に関する記載を含む通知書の記載事項について、その代読方を他に依頼しておれば、認定がなされた障害等級について正確な説明を受け得たと推認して妨げないところであるから、原告に日本語を読む能力がなかったとしても、障害等級の誤信に気付き得る余地があったと推認し得るところである(前記認定に供した証拠によると、原告には通知書の記載内容について誤りない説明を受け得る知人もあったと推認し得るところであり、他方、前記認定のとおり、原告は現に手近の山口労働基準監督署に問い合せていることからすると、前記当時、直接労働基準監督署等関係官庁の担当者の説明を受けることも容易になし得た筈と認められるところである)。
 しかるに原告は、更めて、本件処分の通知書の記載事項全般について、他に代読を依頼などの適切な方法によってその内容を確認了知することをしなかったため、自己の誤信に気付く機会を失ったものといわざるを得ない。右に関し、原告は、その本人尋問(第一回)において、本件処分の通知書もまたAに代読してもらったかのように述べる部分があるものではある。しかし、前記証人Aの証言中にはこれを否定する証言部分があることに、原告は、本件処分の通知のあったその当日のうちに障害補償給付金の支払いを受けていることからすると、むしろ通知書をAに示すことなく受領手続をとったものと推認し得るところであって、この事実と前記証言に対比すると原告の前記供述部分は採用し難い。そうだとすると、原告において日本語を読む能力がないことの故に前記のように誤信したのもやむからぬものであったとは解し難いものであって、これをもって直ちに審査請求期間徒過の正当事由とはなし難いものというにとどまらず、原告が審査請求期間を徒過したのは、原告自らの不注意にもよるものと言わざるを得ない。
 (三) 以上に説示したところからすると、原告に日本語を読む能力が無かったことは審査請求の徒過を追完し得る正当事由とはなり得ないものというべく他方本件審査請求期間の徒過に関し、その追完にかかる正当な理由の有無を判断するうえで、他に特に考慮すべき事情は窺われないから、原告が審査請求期間を徒過したことにつき正当な理由があったものとは認め難いものというほかない。