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ID番号 05104
事件名 損害賠償請求上告事件
いわゆる事件名 青木鉛鉄事件
争点
事案概要  同僚との作業中のけんかにより負傷した労働者が会社および加害者たる同僚を相手取って損害賠償の請求をした事例。
参照法条 労働基準法84条2項
労働者災害補償保険法12条の4
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 1987年7月10日
裁判所名 最高二小
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (オ) 128 
裁判結果 破棄(差戻)
出典 民集41巻5号1202頁/時報1263号15頁/タイムズ658号81頁/労働判例507号6頁/裁判所時報970号3頁/金融商事789号48頁/裁判集民151号367頁
審級関係 控訴審/03203/東京高/昭57.10.27/昭和56年(ネ)1098号
評釈論文 松本恒雄・法学セミナー33巻7号124頁1988年7月/西村健一郎・社会保障判例百選<第2版>〔別冊ジュリスト113〕138~139頁1991年10月/西村健一郎・民商法雑誌98巻4号479~489頁1988年7月/田中壯太・ジュリスト905号70~71頁1988年4月1日/田中壯太・法曹時報42巻2号249~272頁1990年2月/半田吉信・ジュリスト921号95~98頁1988年11月1日/浜村彰・社会保障判例百選<第3版>〔別冊ジュリスト153〕130~131頁2000年3月/末啓一郎・最高裁労働判
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 労災保険法又は厚生年金保険法に基づく保険給付の原因となる事故が被用者の行為により惹起され、右被用者及びその使用者が右行為によって生じた損害につき賠償責任を負うべき場合において、政府が被害者に対し労災保険法又は厚生年金保険法に基づく保険給付をしたときは、被害者が被用者及び使用者に対して取得した各損害賠償請求権は、右保険給付と同一の事由(労働基準法八四条二項、労災保険法一二条の四、厚生年金保険法四〇条参照)については損害の填補がされたものとして、その給付の価額の限度において減縮するものと解されるところ(最高裁昭和五〇年(オ)第四三一号同五二年五月二七日第三小法廷判決・民集三一巻三号四二七頁、同五〇年(オ)第六二一号同五二年一〇月二五日第三小法廷判決・民集三一巻六号八三六頁参照)、右にいう保険給付と損害賠償とが「同一の事由」の関係にあるとは、保険給付の趣旨目的と民事上の損害賠償のそれとが一致すること、すなわち、保険給付の対象となる損害と民事上の損害賠償の対象となる損害とが同性質であり、保険給付と損害賠償とが相互補完性を有する関係にある場合をいうものと解すべきであって、単に同一の事故から生じた損害であることをいうものではない。そして、民事上の損害賠償の対象となる損害のうち、労災保険法による休業補償給付及び傷病補償年金並びに厚生年金保険法による障害年金が対象とする損害と同性質であり、したがって、その間で前示の同一の事由の関係にあることを肯定することができるのは、財産的損害のうちの消極損害(いわゆる逸失利益)のみであって、財産的損害のうちの積極損害(入院雑費、付添看護費はこれに含まれる。)及び精神的損害(慰藉料)は右の保険給付が対象とする損害とは同性質であるとはいえないものというべきである。したがって、右の保険給付が現に認定された消極損害の額を上回るとしても、当該超過分を財産的損害のうちの積極損害や精神的損害(慰藉料)を填補するものとして、右給付額をこれらとの関係で控除することは許されないものというべきである。労災保険法による保険給付を慰藉料から控除することは許されないとする当裁判所の判例(昭和三五年(オ)第三八一号同三七年四月二六日第一小法廷判決・民集一六巻四号九七五頁、同五五年(オ)第八二号同五八年四月一九日第三小法廷判決・民集三七巻三号三二一頁。なお、同三八年(オ)第一〇三五号同四一年一二月一日第一小法廷判決・民集二〇巻一〇号二〇一七頁参照)は、この趣旨を明らかにするものにほかならない。
 これを本件についてみるに、上告人が本件事故によって被った損害の内容及びこれに伴い上告人が受領した労災保険法及び厚生年金保険法に基づく保険給付が前記のとおりであるというのであるから、前記の説示に照らし、右保険給付は、上告人の被った前記損害のうち、休業補償費についてのみ同一の事由についてされたものとして填補関係を生じるにとどまり、前記の入院雑費、付添看護費及び慰藉料との関係では填補関係を生じるものではなく、したがって、右各損害につき前記の保険給付額による控除をすることは許されないものというべきである。