全 情 報

ID番号 05126
事件名 保険給付制限処分取消請求事件
いわゆる事件名 東電社事件
争点
事案概要  労災保険法の一八条に基づき給付制限処分を受けた者が、事業主でないのに事業主とされたとして右給付制限処分を争つた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法18条(旧)
体系項目 労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 使用者の原告適格
裁判年月日 1969年4月26日
裁判所名 富山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (行) 2 
裁判結果 却下
出典 行裁例集20巻5・6合併号637頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-使用者の原告適格〕
 使用者の労働者に対する災害補償義務は、労働基準法第八章所定の災害補償事由の存する限り、法律上当然に発生するものであつて、労働者災害補償保険法による関係行政機関の保険給付に関する処分の有無とはもちろん、その処分の理由となつた要件事由などについての認定などとも全く関係がない。ただ使用者は、労働基準法上、災害補償義務を負うていても、補償を受けるべき者が労働者災害補償保険法によつて保険給付を受けるべき場合には、その価額の限度で補償の責を免れる(労働基準法八四条一項)ことになつている。従つて旧労働者災害補償保険法一八条(昭和四〇年六月一一日法律一三〇号による改正前のもの)による保険給付制限処分がなされた場合、労働者の遺族に対する災害補償義務の免責をうる範囲が減縮するから、使用者は、自己が労働者の業務上死亡時における事業の事業主、従つて労働者災害補償保険法上の保険加入者であること、すなわち自己と国との間に同法に基づく保険関係が成立していることを前提として、右保険給付制限処分が不当であることを理由に該処分の取消しを訴求する法律上の利益を有するけれども、労働者の業務上死亡時の事業の使用者ないし事業主、従つて労働者災害補償保険法上の保険加入者でないのに、関係行政機関からその者が事業主、すなわち保険加入者であるとの認定を受けてその保険料怠納を理由に保険給付制限処分がなされた場合、その者は該処分によつてなんらその権利ないし利益を害されることがないから、自己が事業主もしくは保険加入者でないこと、すなわち自己と国の間に労働者災害補償保険法に基づく保険関係が成立していないことを理由に右給付制限処分の取消しを訴求する法律上の利益を有しないものといわねばならない。
 原告は、本件給付制限処分が確定した暁には、労働者の遺族に給付制限額相当の遺族補償を支払わなければならないし、また右支払に応じないときは刑事罰を課せられると主張するけれども、原告がその主張のとおりに労働者亡Aの業務上死亡時における使用者ないし事業主でない以上、労働基準法による遺族補償義務は負はないのであるから、右給付制限処分により遺族補償義務の免責をうる範囲の増減を問題視すべき余地は全然存しないだけでなく、右給付制限処分が確定したからといつて、遺族補償のうえで原告が亡Aの使用者であつたか、どうかが不可争的に確定する訳のものでもないことはすでに述べたところから自ら明らかであり、また給付制限処分の有無と原告のいう刑事罰とは法律上関係がないから、原告の右主張はあたらない。
 なお、序でながら、被告が原告に対して右給付制限にかかる金額の支払を勧告した事実があつても、右勧告は原告の遺族補償義務の有無についてなんらの影響を及ぼすものでもないから、これをもつて本件訴の利益を肯定すべき根拠とはなし得ない(最高裁判所昭和二七年(オ)第一二八〇号、同三一年一〇月三〇日第三小法廷判決、民集一〇巻一〇号一三二四頁参照)。
 以上で明らかなとおり、原告は本件訴につき原告適格を欠くから、本件訴は不適法であるといわなければならない。