全 情 報

ID番号 05131
事件名 行政処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 倉敷労基署長事件
争点
事案概要  建築請負人に雇用されている大工が建築工事現場で就職依頼に来た男に侮辱的な言辞を浴びた等の理由で同人とけんかになりその者から暴行を受けて死亡した事故が業務上に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法12条1項(旧)
労働基準法79条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 暴行・傷害・殺害
裁判年月日 1970年3月27日
裁判所名 広島高岡山支
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (行コ) 5 
裁判結果 棄却・取消
出典 労働民例集21巻2号406頁/訟務月報16巻6号601頁
審級関係 上告審/05156/一小/昭49. 9. 2/昭和45年(行ツ)58号
評釈論文 保原喜志夫・ジュリスト502号125頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-暴行・傷害・殺害〕
 右事実によれば、亡AはBに仕事の一部を手伝つてもらつたものの、その作業内容を批判するような言動を示されたので、Bに対し仕事もできないものが何をいうかという趣旨の侮蔑的な言辞を述べてBを立腹させ、Bの呼びかけに応じて屋根の作業現場から下の県道まで降りてきて、立腹しているBに対しなんらの謝罪もせず、かえつてBを嘲笑するような態度でにやにや笑みを浮べてBを挑発したので、木村は慣激の余り前示暴力を振うようになつたことが認められる。
 三 或る災害が業務上と認められるためには、それが業務遂行中に業務に起因して発生したものであることを要すると解すべきである。もつとも業務遂行中とは労働者が使用者の従属関係にあることを意味し、業務に起因するとは、それが業務を原因として生じた災害で業務と事故との間に相当の因果関係が存する場合をいうのであるから、業務上の災害とは使用従属関係のもとにある労働者が、その業務に起因して被つた災害によるものと認められる場合をいうのである、そして業務遂行中に生じた災害は業務に起因するものと推定せられるが、被災者の積極的な私的行為や恣意的行為によつて災害を招いた場合には、これらは私的行為・恣意的行為による災害として除外され、さらに第三者の暴行による災害は、他人の故意に起因するものとして一般的に業務に起因するものとはいい難いが、被災者の職務の性格や内容などを考慮し、加害行為が明らかに業務と相当因果関係にあると認められる場合に限り、その災害は業務上のものというべきである。
 これを本件についてみると、前掲認定によつて明らかなように、本件災害は亡AがBに対し侮蔑的言辞を述べ、さらに同人の呼びかけに応じて県道上まで降りてきて嘲笑的態度をとり同人の暴力を挑発させたことに起因するものであるところ、亡Aのかかる行為はいかなる点からみてもその本来の業務に含まれないことは勿論、それに必然的に随伴または関連する行為でもなく、また業務妨害者に対し退去を求めるための必要的行為と解し得る余地も存しない。
 したがつて亡Aの災害は、その使用従属関係の下におきたものであるが、業務と関連がない同人の私的行為または挑発的な恣意的行為によつて自ら招いた災害というべきであつて、その死亡と業務との間には相当因果関係がなく、これを業務上の死亡と解し難いものといわなければならない。