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ID番号 05136
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 豊国交通事件
争点
事案概要  労働災害の被災者が、加害者たる会社を相手として損害賠償を請求したケースで、過失相殺と労災保険給付の控除の先後が争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法20条1項
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
裁判年月日 1971年9月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (ワ) 2461 
裁判結果 一部認容(確定)
出典 下級民集22巻9・10合併号954頁/時報652号60頁/タイムズ270号283頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 加害者側が賠償すべき損害金を填補することを建前とする自賠責保険金と異なり、労災保険金は、災害を受けた労働者に原則として、できうる限り完全な補償を政府により与え、保護しようとする制度下で給付されるものであって、加害者より被害者が賠償を受ける限度で補償を与えようとするものでないことは、例えば労働者災害補償保険法一九条の規定からも、また法二〇条の求償権の行使は、過失相殺の結果、加害者に被害者が賠償を求めうる限度をこえる場合はこれをなさないとする解釈上からも、なんら支障なく肯定されるところであり、被害者としては、たとえ過失相殺により、給付さるべき保険給付額を下る賠償額しか加害者に請求しえない場合でも、これがために保険給付額が低減される由縁なく、そうすると、労災保険金の給付をなした政府は、その給付額の限度より過失相殺斟酌割合に応じて算出される賠償応分額を、同じく右給付額を控除した金額より右過失割合に応じて算出される賠償額を請求する被害者とならんで、各一個の請求権を加害者に対し行使しうることになるのであり、かく解するときは、本件のごとく被害者の請求においては、労災保険給付相当分の損害は、当事者の主張と齟齬なき限り、加害者の賠償すべき額ではなく、被害者の蒙った損害額をもとに、消滅させる債権を考慮すべきことになるところ、前記認定によれば、労災保険金は本訴請求外の治療費二二万七四九四円をまず弁済消滅させ、その残余一四万七、三六九円が、本訴請求中の相当損害金一四一万八、五七二円をその限度で消滅させることになり、この後の金一二七万一、二〇三円の七〇%に当る金八八万九、八四二円より自賠責保険金五〇万円を控除した金三八万九、八四二円が原告においてなお支払を被告に求めうる金額となるわけである。