ID番号 | : | 05144 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 休業補償支給決定職権取消事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 休業補償費の支給決定が職権により取消され支給額の返還を求められた者が右返還請求を違法として国家賠償法に基づき損害賠償を請求した事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法14条 国家賠償法1条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 国等による支給処分の取消等 |
裁判年月日 | : | 1973年5月11日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和46年 (ネ) 1891 |
裁判結果 | : | 棄却(上告) |
出典 | : | 訟務月報19巻8号48頁 |
審級関係 | : | 一審/東京地/昭46. 6. 5/昭和43年(ワ)10333号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-国による支給処分の取消等〕 労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)給付に関する労働基準監督署長の決定は当該労働者の権利に対し直接法律的効果を及ぼすものとして、公権力の行使にかかる行政処分に当るものというべきである(この点については、被控訴人国も争わないところである。)から、平労働基準監督署長の控訴人に対する休業補償費支給決定の取消が行政処分であることは明らかであるが、そもそも行政庁が自らのした行政処分をその瑕疵を理由に職権で取消すについては、これを必要とする公益上の理由があること、とりわけその取消によつて関係人の既得の権利または利益が侵害されるときには、そのような関係人の被害に比して当該取消を必要とする重大な公益上の理由の存する場合でなければならないものというべきである。ところで労災法の規定による労災保険の制度は、労働基準法(以下「労基法」という。)が労働者の業務上の災害について使用者に課した無過失賠償責任の履行を迅速かつ確実ならしめることにより労働者の保護の完全を期するとともに、使用者の危険負担の分散を図ることを目的とするものである。すなわち、労災保険は、政府が保険者となり、使用者においてこれに加入して保険料を納付しておれば労働災害の発生した場合には、被災労働者またはその遺族等に対して政府が保険給付を行ない、これによつて使用者は労基法上の災害補償責任を履行したことになるという仕組みになつているものである。このような労災保険の構造からすると、労災保険の給付開始の原因となるべき労働者の業務上の災害についての労働基準監督署長の認定の誤りは、労災保険制度の運営に対する重大な支障につながるものであるというべく、労働基準監督署長においてその過誤を正すために一たんした保険給付の決定を自ら取消すことは、まさに公益上の必要に基づくものであると解すべきである。一方右取消によつて、従来保険給付を受けて来た労働者はその利益を剥奪されることになるわけであるけれども、当該利益が元来その原因なくして不当に享受されつつあつたものであることにかかんがみるときには、その喪失はいわば当然の結果として当該労働者において忍受しなければならないものというべきである。この理は、保険受給が当該労働者の不正手段による(本件における平労働基準監督署長による前記取消処分のあつた後に施行された昭和四〇年法律第一三〇号により改正にかかる労災法第一九条の二第一項参照)ものでない場合(本件における控訴人の休業補償費受給が控訴人の不正手段によるものであることを認めうる証拠はない。)においても異るところはないものとすべきである。してみると右のような労災保険給付決定の取消についての公益上の必要性は、その取消が関係労働者にもたらすべき犠性を考慮に入れてもなお減殺されるものではないと解すべきである。従つて平労働基準監督署長が控訴人に対する休業補償費支給決定を取消したことには、いささかの違法性もないものといわなければならない。 |