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ID番号 05145
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 戸塚管工事事件
争点
事案概要  労働災害により死亡した者の遺族が加害者に対して損害賠償を請求したケースで、労災保険法一六条の「遺族補償一時金」の支給がなされた場合、右一時金の額が労基法の定める額より低い場合でも使用者は同一の事由について同法の定める災害補償の義務をまぬがれるか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法16条
労働基準法84条1項
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労基法との関係
裁判年月日 1973年5月30日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ネ) 359 
裁判結果 取消・棄却
出典 労働民例集24巻6号547頁
審級関係 一審/横浜地/昭46. 1.30/昭和42年(ワ)1931号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労基法との関係〕
 右法律の第八四条第一項によれば、同法に定める労働者災害補償の事由について、同法の災害補償に相当する給付が、労働者災害補償保険法(昭和四〇年法律第一三〇号による改正当時のもの)に基づいて行われるべきものである場合には、使用者は、補償の責を免れる旨を規定し、右労働者災害補償保険法第一六条において遺族補償給付として年金または一時金が定められ、本件においてはその一時金給付の場合に該当するものとして、すでにその支給がなされたことは被控訴人らのみずから主張するところである。そうとすれば、右一時金の給付は前記労働基準法の災害補償に相当する給付に当り、控訴人は右災害補償の責を免れているものというのほかはない。
 (三) もつとも、労働基準法第七九条においては、遺族補償の額は死亡労働者の平均賃金の一、〇〇〇日分と規定されているのに、右労働者災害補償保険法第一六条の六、同条の八及び同法別表第二によれば、遺族補償一時金の額は右平均賃金の四〇〇日分と規定されていて、(イ)労働者保護の基本法である労働基準法が使用者の責任として定めた範囲を、その責任保険としての性格をもつ筈の労働者災害補償保険法が軽減するという不合理を招き、(ロ)死亡労働者の勤務していた事業が労働者災害補償保険に加入していたときは、遺族補償一時金が前記四〇〇日分となり、これに加入していなかつたときは右一時金が前記一、〇〇〇日分となるという、右加入、不加入という労働者または遺族に無関係な事情による著しい不公平が生ずるという問題がある。そして、昭和四〇年法律第一三〇号による右二法の改正前における労働基準法第八四条第一項は、右保険給付があつても、使用者は「その給付の限度において」補償の責を免れる旨を規定していたことからすれば、右の不合理、不公平は一層明瞭であるようにみえる。
 (四) しかし、右(イ)の点は、労働基準法自体において、一方で遺族補償についての一般的な定めをし、他方で前記保険に加入している事業の場合の特例を定めて、その保険給付の額を前記保険法の定めに譲つているのであるから、必ずしも不合理であるとはいえないし、(ロ)の点も、なる程遺族補償一時金の額は、事業が前記保険に加入していない場合より、その加入している場合の方が少いけれども、反対に、右加入のない場合には前記一般の例によるほかに遺族補償年金支給の途がないのに、右加入の場合には右年金支給によるより厚い保護があるのであつて、この保険加入の有無による結果の相違は遺族補償そのもののなかでの公平、不公平の問題ではなく、保険制度のなかでの給付の仕方にかかるものであり、その保険制度の改善、工夫によつてやがてより保護の厚い方向に進む過渡的な一現象とみるべきものである。そして、現に、右現象は昭和四〇年法律第一三〇号による前記二法の改正によつて始めて生じたのであるが、その後、昭和四五年法律第八八号によつて労働者災害補償保険法が改正され、以上の問題が解消されたのである。
 (五) 以上の考えと異る見解に立ち、被控訴人らの前記受給済の遺族補償一時金を超える補償を求める本訴請求は失当というのほかはなく、これと相異する原判決の部分は不当であるから、その部分を取り消し、被控訴人らの請求を棄却することとする。