ID番号 | : | 05147 |
事件名 | : | 療養補償費不支給決定処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 福知山労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 六年にわたってモーターグレーダーの運転に携わってきた運転手の椎間板ヘルニアによる腰痛が業務に起因する疾病といえるか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法75条 労働者災害補償保険法13条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病 |
裁判年月日 | : | 1973年9月21日 |
裁判所名 | : | 京都地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和42年 (行ウ) 15 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | 時報720号46頁/タイムズ300号317頁 |
審級関係 | : | 控訴審/05169/大阪高/昭51. 4. 2/昭和48年(行コ)25号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕 椎間板ヘルニアの多くが、椎間板の退行変性を下地とし、これに日常的な諸動作による負担の積重ねが加わって椎間板の組織が徐々に損傷されることにより、遂にその発症をみるものであることは、さきに認定したとおりであり、一般にその原因について、業務との関連性を正確に把握することが極めて困難であるため、業務起因性を積極的に認定できない場合がむしろ通例であることは、否定できない。しかし、椎間板ヘルニアの発症の可能性が、日常腰部に加えられる負担の強さに対応し、統計的にも重作業従事者に椎間板ヘルニアの発症が多くみられ、その作業内容が日常の諸動作に比し腰部に著しく過度の負担をおよぼす性質のもので、しかも、その作業従事期間が長期間にわたる場合には、当該業務の影響が、日常生活での諸動作やその他の原因にもまして椎間板ヘルニア発症の主要な原因となっているものと推認するのが最も合理的である。従って、このような場合には、さきに認定した椎間板ヘルニア発症の病理経過からして、その発症と業務との間の因果関係が医学的にも明らかであるとして、これに業務起因性を肯認するのが至当であるといわなければならない。 〔中略〕 原告は、本件腰痛によってA病院に入院するまでの間約七年にわたって、モーターグレーダーの運転業務とその附随業務である刃の取替作業に従事し、うち五年間はこれに専従していたもので、右運転業務従事中は終始中腰の不自然な姿勢でモーターグレーダーの振動と騒音を直接身体に受けていたものである。そして、この振動と騒音は甚だ強度のものであり、その際の不自然な姿勢とあいまって、右運転業務中に原告の腰部に加えられた負担の程度は、日常生活における一般的な諸動作による負担の域をはるかに超えるものとしなければならない。原告は、この業務に継続的に従事することによって、通常の日常生活を営む限りでは生じえないような高度の腰部の変性ないし損傷をもたらされたことが推認でき、また、右運転業務に附随するモーターグレーダーの刃の取替作業も、総重量四一キログラムの重量物の運搬を伴うものであるから、これによって腰部に加えられる負担も、通常の日常生活を営む際の負担より高度のものであると推認できる。しかも、原告は、右業務に従事するようになってから、慢性的に腰痛を覚えるようになったものであり、昭和三九年三月二日の刃の取替作業時にその腰痛を悪化させたが、その後も、職場の事情から引き続き約四か月間右業務に従事しており、このこともまた、原告の腰部疾患をさらに増悪させる原因となった。そして、原告の日常生活その他において、一般的な年齢的、日常的素因以外に、本件腰痛の原因となるような特段の事情の存在したことが認められる証拠は全くない。 以上のような原告の業務内容とその従事期間、腰痛の発症時期とその症状経過、椎間板ヘルニアの発症についての病理経過を併せ考えると、原告の本件腰痛の発症とその業務との間に相当因果関係を肯認することができ、その因果関係は、医学的にも十分説明できるものである。 |