全 情 報

ID番号 05149
事件名 労災保険給付不支給決定取消請求事件
いわゆる事件名 川崎南労基署長事件
争点
事案概要  日雇い港湾労働者が紹介先の事業場から派遣された連絡員の点呼確認を受けたあと、自己所有のオートバイで事業場に向う途中の事故による負傷につき業務上か否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法13条
労働基準法75条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 通勤途上その他の事由
裁判年月日 1973年10月19日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (行ウ) 5 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 訟務月報20巻3号41頁
審級関係 控訴審/05174/東京高/昭52. 1.27/昭和48年(行コ)65号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-通勤途上その他の事由〕
 労働者災害補償の対象となるのは業務上の災害でなければならないところ、業務上の災害というには、必ずしも業務遂行中の災害には限定されないが、その災害が使用者の指揮命令の関係に付随して生じたこと即ち客観的にみて使用者の支配下にある状態において生じたことが必要であるといわなければならない。
 原告は、港湾労働者は安定所に半ば強制的に登録されたものであるから、登録と同時に港湾運送業者の支配下にあると主張するが、登録されたのみで、安定所の紹介によつて個々の事業主に雇入れられていない段階においては、港湾運送業者の支配下にあるということはできず、右主張は失当である。
 (証拠省略)によれば、前記安定所川崎出張所においては安定所が日雇労働者が提出した青手帳に紹介先、指示事項等を記入した後、労働者に所定の整理カードを渡し、青手帳は事業場から派遣された連絡員に手渡し、連絡員が紹介を受けた労働者を点呼確認し、青手帳を預つたまま労働者を事業場に引率するという方法が慣行として行われていることが認められ、本件においても右の方法がとられたと推認されるところ、労働者としては青手帳の返還を受けるまでは実質上他の事業場では働くことができないのであるから、前記連絡員による人員点呼がなされた時点において当該事業場との間で雇傭契約が締結されたというべきであり、この点についての被告の主張は採用できない。
 従つて、本件の場合、原告が前記会社の連絡員によつて点呼確認を受けた段階で雇傭契約が締結されたということができるが、雇傭契約の存在から直ちに事業主の支配下にあると認めることはできず、事業主が労働者に対して指揮監督をなしうる状態にあつたか否かが検討されなければならない。
 原告が前記会社の連絡員による点呼確認の後、自己所有のオートバイに乗つて事業場に向つたことは当事者間に争いないところ、(証拠省略)によれば、原告は前記会社の連絡員の指示ではなく、自己の意思によつて自己所有のオートバイで事業場に向つたことが認められ、かかる場合は、会社の出迎バスに乗車した場合と異なり、連絡員の了解の有無に関わらず事業主の支配を離脱しているものというべきである。
 (証拠省略)によれば、原告が負傷した場所は川崎港の港域内ではあるが、前記会社の事業場内ではないことが認められ、右地点に到達した段階では、未だ前記会社の支配下に入つたということはできない。
 なお原告が負傷した時間が賃金の対象となる時間内ではないことは当事者間に争いがない。
 以上により、原告の負傷は前記会社の支配下における災害によるものとは認められず、被告が原告の負傷を業務外と認定してなした本件不支給決定処分は正当であり、右決定を取消すべき理由はない。