ID番号 | : | 05151 |
事件名 | : | 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 宇部労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 電柱に登って引込み線の架設工事を行なっていた電工が五、六分後に宙ずり状態で死亡しているのが発見された事故で、遺族が業務上の死亡であるとして遺族補償を請求した事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法12条(旧) 労働基準法79条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 |
裁判年月日 | : | 1974年2月18日 |
裁判所名 | : | 山口地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和45年 (行ウ) 6 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 時報741号72頁/訟務月報20巻6号114頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 (一) 労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付等は、同法一条、一二条一項、二項、労働基準法七九条、八〇条によれば、労働者が業務上の事由により死亡した場合に支給されるものとされており、ここにいう業務上の事由による死亡とは、現行の労働者災害補償保険制度の趣旨、目的に照らしてみると、労働者の死亡がその業務遂行中に発生し、かつ、その業務との間に相当因果関係があり、死亡がその業務に起因すると認められる場合、すなわち、死亡に業務遂行性とともに業務起因性があるものと認められる場合に限るものと解されるが、その立証の困難な場合が多いことに鑑み、労働者の死亡がその業務に従事中発生し、その死亡に業務遂行性が認められる場合には、反証のない限り、その業務と死亡との間に右の相当因果関係があり、その死亡に業務起因性があるものとして、いわゆる業務上の事由による死亡と推定するのを相当とする。 (二) これを本件について見れば、前記のとおり、本件死亡事故は、Aが電工としての業務に従事中に発生したものであり、しかも、その発生した事故が電工としての業務に伴う感電による危険が現実化したものであるといえるから、本件事故については、いわゆる業務遂行性の存在することが明らかである以上、反証のない限り、いわゆる業務起因性の存在を推定するのが相当である。 被告は、本件死亡事故の原因が、専らAの持病である心臓病の漸次的悪化に伴なう急性心臓麻痺に起因するものであると主張し、《証拠略》中に右主張に副う部分があるけれども、後掲各証拠に照らして採用し難く、かえって、前に認定した事実に《証拠略》を総合すると、Aには本件事故の約二ケ月前弱い心筋障害(心筋虚血の傾向)が認められたものの、必ずしも右障害が直ちに本件死亡につながるものとは考えられないし、又死後の同人の眼瞼に出血斑が認められる状況などからして、心臓の停止より呼吸の停止が早く心臓麻痺と言うより、むしろ窒息死と見るべきだとする見解もあり、一方、Aが前記電柱に宙吊りになっている状況から推してみるとAは、上体を起した状態では頭部を一〇〇ボルト線と二二〇ボルト線との間に位置し、汗で濡れた軍手をはめた手が一〇〇ボルト線の被覆の破れた部分に触れる可能性が皆無であったとも言えないこと、一〇〇ボルトでも場合によっては感電死する可能性もあるとされていること、又Aの死体の右示指に皮膚の断裂などがあったこと、事故当日および事故当日以前のAの労働状態では、本件事故発生の際同人が急性心臓麻痺を起こすような要因が認められないこと等を考慮すると、被告の主張事実を認めることはできない。 他に右の推定を覆えすに足りる証拠はない。 従って、本件の場合、Aの死亡は「業務上の事由による」ものと認めるのが相当である。 |