全 情 報

ID番号 05160
事件名 裁決等取消事件
いわゆる事件名 明治パンオール夜勤事件
争点
事案概要  オール夜勤体制のパン工場でベルトコンベアにより製品の仕分け作業に従事していた作業員の急性心臓死につき業務上か否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法1条
労働基準法79条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1975年1月31日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (行ウ) 121 
昭和47年 (行ウ) 138 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 タイムズ323号264頁/訟務月報21巻3号652頁
審級関係 控訴審/05041/東京高/昭54. 7. 9/昭和50年(行コ)7号
評釈論文 佐藤進・労働判例219号18頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 以上の認定によると、Aの死亡前三か月間の労働量は過重とはいえず、毎月五日ないし七日の公休は完全に消化されており同四二年八月二六日再びオール夜勤の仕分け作業に復した以降は、残業は皆無である。もつとも、オール夜勤という勤務体制が人間にとつて異常な労働形態であることは原告の指摘するとおりであるが、Aは以前も一年三か月近く同体制の下で勤務したことがあるから初めての経験ではなく、仕分け作業部門では一年以上従事している作業員が大半を占めていながら、かような作業に従事していることが原因とみられる病人が出たことは少なく、A本人も無欠勤であつた。したがつて、オール夜勤という勤務体制、しかもこれが作業内容が肉体的というよりもむしろ精神的疲労を多く伴う業務であることを考慮したとしても、同体制の下で就労することが直ちに作業員に対して著しい精神的または肉体的な負担を課するとはいえない。成程本件死亡事故が発生した当日は、Aが久し振りに仕分け作業に復してから一〇日余りしか経つておらず、公休日の前日にあたり八月三一日から七日間の夜勤続きであり、しかもホットケーキ区は当日からの担当であり、Aが倒れるまでの作業量も他の仕分け区に比べて可成り多かつたことは否定できないとしても、本人は仕分け作業について一年三か月に達する経験者であり、ベルトコンベアーの下でも一か月余り就労していたから、ホットケーキ区が不馴れな仕事とはいえず、当日の作業量も平常に比べてとくに多いともいえなかつた。そして、深夜作業体制の下であるとはいえ、Aが倒れるまでは作業開始後わずか一時間足らずしか経つていなかつたから、就労による著しい疲労が加わつたとは考えられず(〈証拠〉によると、作業員は午前二時か三時ごろと終業時に疲労を訴えている。)、当日におけるAのミスの続出も、本人にとりまたその職場においても珍らしい事柄ではなく、気温もとくに蒸し暑いというまでには達していなかつた。かようにして、当日死亡に至るまでの間Aの従事した作業は、質・量ともに日常の業務とはなんら大差がなく、ただ普段と異つた点としては、本人は死亡の前日から身体の不調を覚えて食欲が余りなく、当日はひどく疲れた様子のまま出勤した点があげられるにとどまる。
 ところで、証人Bの証言によると、高血圧の者が深夜勤務すればその健康に好ましくない影響を与えることは否定できないとしても、急性心臓死は、突発的かつ異常な事故とか、とくに過激な労働により、精神的若しくは肉体的に普段と異る著しい負担が生じた場合に発症するものであることが認定でき、以上の医学上の見解に立つて本件を見る場合、Aに高血圧の既往症があることを考慮したとしても(本件死亡時の血圧は不明である。)、同人の死亡とその従事した業務との間に相当因果関係があると解することは困難である。