ID番号 | : | 05172 |
事件名 | : | 遺族補償年金不支給処分取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 佐伯労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 夫の死亡により遺族補償年金の支給を受けていた者がブラジル在住のAの養子になるとして養子縁組の届けをしたことに対して、労災保険法一六条の四第一項三号により遺族補償年金の支給をしない旨の処分を受けたため右不支給処分の取消を求めた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法16条の4第1項3号 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 遺族補償(給付) |
裁判年月日 | : | 1976年12月20日 |
裁判所名 | : | 福岡高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和51年 (行コ) 3 |
裁判結果 | : | 棄却(上告) |
出典 | : | 労働民例集27巻6号708頁/時報858号56頁/訟務月報23巻2号363頁 |
審級関係 | : | 上告審/05186/二小/昭53.11.20/昭和52年(行ツ)40号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-遺族補償(給付)〕 1 控訴人は受給権発生前から事実上の養子であった者が、受給権発生後法律上の養子になったとしても、一般的に被扶養利益の喪失状態を解消する身分的関係および財産的関係の変動がないから、失権事由に該らないと主張するので判断する。 遺族補償年金についての受給権の消滅すなわち失権は、遺族補償年金が労働者の死亡により被扶養利益を喪失した遺族に対してそれを填補することを目的として支給されるものであることにかんがみ、受給権者において被扶養利益の喪失状態が解消したとみなされるに至ったとき、その者は遺族補償年金を受けることのできる遺族でなくなった(労災保険法第一六条の四第二項)ものとして、その受給権を消滅させる趣旨のもとに労災保険法第一六条の四第一項各号が規定されている。そして、特に同条第一項二号ないし四号の失権事由は、受給権者の身分関係の変動に伴い当然にその被扶養状態に変動が生ずるものであることを前提としているものと解される。 ところで、事実上の養親子とは、一般に当事者間に養親又は養子と認められる事実関係を成立させようとする合意があり、扶養の事実関係があるにも拘らず、養子縁組の届出を欠く場合をいうのであるから、その後において養子縁組の届出がなされ法律上の養親子関係が成立しても、当事者間には扶養に関して事実的には変動がないのが通常であるといえる。しかしながら、事実上の養親子の場合、法律的にこれをみるとき当然に、養子縁組の効果としての嫡出子の身分の取得や養親および養親親族との間に親族関係や、相続、扶養等の親族法上の法律関係が生ずるものではなく、これらは法律上の養親子関係の成立によってはじめて発生するものであるから、原判決理由説示のとおり、事実上の養親子が法律上のものとなることによって、従前の事実上の養親子関係のもとにあったとき以上の新な法律関係が形成され、その新な法律関係の形成に従い、当事者間に被扶養状況の変動が生じたものと解するのが相当である。 〔中略〕 3 労災保険法上、遺族補償年金の給付を受ける者を遺族に限定しており、更に同法第一六条の四の第二項において、遺族補償年金を受けることができる者が前項の各号に該当するに至ったときは遺族補償年金を受けることができる遺族でなくなる旨の規定の存在並びに先に述べた理由からみても、本件の場合、控訴人が訴外Aと法律上の養子縁組をしたことは、労災保険法第一六条の四第一項第三号に該当するものと解するのが相当である。 |