全 情 報

ID番号 05173
事件名 療養補償費不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 朝日新聞社北海道支社事件
争点
事案概要  新聞社のメツキ、製版等の作業員の椎間板ヘルニアによる腰痛が業務に起因する疾病といえるか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法75条
労働者災害補償保険法1条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 1976年12月22日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (行ウ) 12 
裁判結果 認容(確定)
出典 時報852号54頁/訟務月報22巻13号2987頁
審級関係
評釈論文 阪口徳雄・労働判例270号4頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 ところで椎間板ヘルニアについて見るに、線維輪の断裂および髄核の突出はその退行変性を基盤として脊椎の運動特に腰部の屈伸運動に捻転が加わった時に生ずる圧の変化により惹起されるものであることは前示のとおりであり、《証拠略》によれば右圧の変化は日常の慣行的動作の積重ねによっても生ずるものであり、殊に家庭の婦人にも見られるものであることが認められるから、椎間板ヘルニアは業務上外でも発症するものであるということは明らかであるということができる。しかし疾病が椎間板ヘルニアであることから直ちにそれが業務遂行との間に因果関係が存在しないと断ずることは相当でなく、業務内容、業務従事期間等の点においてそれが日常動作に比してより過重な脊椎の運動特に腰部の屈伸運動に捻転が加わる如きものであり、なお同種業務に従事した労働者間に同種発症が見られるものであるならば、このような場合における椎間板ヘルニアは右業務に起因することの証明があったものと考えることができる。
 〔中略〕
 前示原告の作業の内容、体制、期間および環境に更に原告と同種の作業に従事している者の間の相当部分において業務上の腰痛症のみならず非災害性椎間板ヘルニアの発症を来たしていることに鑑みると原告の前記業務内容は、原告に対し日常の動作に比してより過重な脊椎の運動特に腰部の屈伸運動に捻転を加える如きものであったものというべく、従って原告の第四-五腰椎椎間板に多大の圧を加えたことは容易に肯首できるところであり、かつ、前記不規則な勤務体制による疲労の蓄積は原告において脊椎周囲の筋肉の機能低下により腰部への負担が直接的に脊椎へと作用しうる状況に陥っていたことが推認される。しかして右事情の下では、業務による疲労状態を背景にし、更に前記各作業による腰部への負荷の蓄積が、右第四-五腰椎々間板髄核の突出へと進行させた大半の要因とみるのが相当である。そうして見れば、本件業務遂行と本件疾病即ち第四-五腰椎々間板ヘルニアおよびこれを原因とする右根性坐骨神経痛との間には相当因果関係が存することが明らかであるものというべく、然らば、本件疾病は労働基準法施行規則第三五条第三八号に該当するものということができる。
 成程前記椎間板ヘルニアの病理に照らせば、日常生活上の動作も誘因となりうるし、原告の場合にもその一部の要因として働いたことも十分考えうるが、その寄与した割合は、原告の前記業務における右腰部に対する負担に比べれば問題にする必要のない程度のものと考えることができるから、右認定を覆えすことはできない。
 又原告の本件腰痛の発症時は、最初の自覚症状があったのが、入社時から四ケ月後の昭和四三年九月下旬頃であり、入院したのが入社時から一年二ケ月後の昭和四四年七月下旬であって、業務に従事していた期間が比較的短いといえるが、前記本件職場の作業内容、勤務体制、腰痛症の発生状況に照らせば、それだけ本件職場における業務が腰部に負担のかかるものであったことを示すにとどまり、前記相当因果関係の認定を左右するに足りない。
 四 そうしてみると原告の本件疾病を業務上の事由によるものと認められないことを前提として為した被告の本件処分は結局違法であることに帰し取消を免れない。