ID番号 | : | 05182 |
事件名 | : | 遺族補償費等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 和歌山労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 高血圧症の基礎疾病を有する大工人夫が工事現場で作業中に脳内出血を引き起こし翌日死亡したケースで、右死亡が業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法1条 労働基準法79条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1977年11月7日 |
裁判所名 | : | 和歌山地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和47年 (行ウ) 2 |
裁判結果 | : | 認容(確定) |
出典 | : | 訟務月報23巻12号2197頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 (五) 以上の各事実を総合して、Aの脳内出血の原因を考察してみるに、右脳内出血の原因としては、外傷を伴なわない打撲によるものと、高血圧症に精神的・肉体的なストレス(緊張)が加わつたことによるものの、いずれかと考えられる(なお、被告が主張するその余の潜在体質が原因であることを示す十分な証拠はない。)。 ところで、Aは、胴木組み立て作業に従事していた際突然頭痛を訴えて、小屋まで休憩するために歩行の途中の地点で倒れていたところを発見されたことからすると、Aの脳内出血は、右胴木組立作業中に頭痛を訴えた時点で既に発生していたと推認される。更に、Aが斜面下で倒れていた位置、その際のAの姿勢及びAの頭部近くにあつた排水管、安全帽(ヘルメツト)の傷あと、頭部の青ずんだ部分の各位置関係並びに、Aは次に斜面をおりて床堀現場で胴木の組み立て作業をする予定であつたこと、右斜面はすべりやすい状態であつたことからすると、Aは、堤防斜面で足をすべらせて転倒し、その際、右排水管に頭部を打ちつけたか、又は打ちつけなかつたとしても、転倒したことにより頭部に衝撃を受けたものと推認される。もつとも、Aが本件事故後B病院に運び込まれた際同人は非常に高い血圧値を示したこと、同人の年齢(〈証拠略〉によると、Aは、大正二年一二月一日生まれで本件事故当時五六歳であつたことが認められる。)からすると、同人は、当時その症状の程度はともかくとして、高血圧症であり、これに何らかのストレス(緊張)が加わつて脳内出血を起こしたものでないかが疑われる。しかしながら、Aが脳内出血を起こしたと考えられる際、同人が従事していた作業は、前示のとおり、胴木運搬及び胴木組み立ての各作業であり、同人は右作業を以前からしていたものであること、及び、右作業は土木工事にたずさわる者としてはさして重労働とはいえないこと(この点は〈証拠略〉により認められる。)からすれば、右作業が、Aの高血圧症に加わつて脳内出血を起こさせるようなストレス(緊張)であるとはいえず、また他に右のようなストレス(緊張)をうかがわせるようなことはみあたらない。なお、Aは、過去に高血圧症の治療を受けたことは前示のとおりであるが、それは本件事故より一年半も前のことであり、しかも、きわめて軽度なものであつた。以上の諸点を考え合わせると、Aの脳内出血は、Aが足をすべらせて転倒した際に、頭部に受けた衝撃を契機とするものであつて、Aが当時高血圧症にかかつていた疑いがあるものの、その疾病は、同人が衝撃を受けた際に脳内出血を増悪させる要因でありえたとしても、右転倒した際の衝撃こそが同人に脳内出血を起こさせた有力な原因であつたと推認される。 2 ところで、原告が本件給付を受けるためには、労働基準法七九条、八〇条、昭和四八年法律第八五号による改正前の労働者災害補償保険法一二条一項、同四九年法律第一一五号による改正前の同法一条からすると、Aが、労働者として、「業務上の事由により死亡した場合」に該当しなければならないところ、本件の如く、業務の際に疾病を起こして、即死したのではなく、その後死亡した場合には、右にいう「業務上の事由による死亡」とは、その疾病が業務遂行中に発病し(業務遂行性)、かつ、業務と疾病との間に相当因果関係が存する(業務起因性)だけでなく、疾病と死亡との間に相当因果関係があることが必要であるが、右業務起因性が認められるためには、その業務が疾病を起こした最も有力な原因である必要はなく、業務が相当程度の有力な原因であることを要し、かつ、それで足りるものと解するのが相当である。 よつて、本件をみると、Aは、胴木運搬作業を終えて次に予定された胴木組み立て作業に行く途中、足をすべらせて転倒し、その際の衝撃により脳内出血を起こしたものであるから、Aが業務遂行中に脳内出血を起こしたことは明白であり、また、Aの脳内出血の相当程度の有力な原因として右転倒の際の衝撃が考えられるので、同人の脳内出血に業務起因性が認められ、しかも、右脳内出血がAの唯一の死因であるから、結局Aの死亡は、業務上の事由による死亡であると認められる。 |