全 情 報

ID番号 05185
事件名 遺族補償等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 橋本労基署長事件
争点
事案概要  交通の不便な山間僻地の発電所に勤務している電力会社の職員が、通常の通勤日にバスに乗り遅れたため自己所有の原動機付きの自転車を運転して自宅を出て出勤する途中に県道から転落して死亡した事故につき、業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法1条
労働基準法79条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 通勤途上その他の事由
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務遂行性
裁判年月日 1978年6月28日
裁判所名 和歌山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (行ウ) 5 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 訟務月報24巻7号1476頁
審級関係 上告審/05044/二小/昭54.12. 7/昭和54年(行ツ)24号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務遂行性〕
 原告が本件給付を受けるためには、労働基準法七九条、八〇条、昭和四八年法律第八五号による改正前の労働者災害補償保険法一二条一項、同四九年法律第一一五号による改正前の同法一条からすると、繁男が、労働者として、「業務上の事由により死亡した場合」に該当しなければならない。ここにいう業務上の事由とは、労働者が使用者の支配管理下におかれている状態において災害が発生したこと(業務遂行性)を必要とすると解すべきである。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-通勤途上その他の事由〕
 原告は、右のような状況がある以上出勤命令があつたと同視すべきで特別の事情により本件事故は業務上の災害に外ならないと主張する。しかしながら、およそ、使用者が労働者に対して出勤を命じた場合に、その労働者が出勤途中に使用者の支配管理下に入つたとみるべき特別の事情があるというためには、少くとも、労働者が休日等で本来労務提供義務のない日に、使用者が自己の都合により労働者に特別の出勤を命じた場合であることが必要であると解するのが相当であるところ、本件においては、Aは本件事故当日、直勤務者として本来B発電所で第二直勤務に従事すべき労務提供義務があつたものであり、仮に上司より出勤するように言われたとしても、又は、これと同視すべきであるとしても、それはAがバスに乗り遅れて遅刻しそうになつたことに対し、Aの当日の労務提供義務を履行するように促すものにすぎず、出勤の義務のない日に特別の出勤を命じられた場合ではないから、右にいう特別の事情があつたとはいえない。
 更に、Aがバスに乗り遅れた後、仮に、権限のある上司に対し連絡のうえ年休を請求し、本件事故当日の第二直勤務を休暇とするようにその時季を指定したとしても、右のような組合が争議中であり、代勤者の獲得も困難な事実関係からすれば、労働基準法三九条三項但書所定の事由があることは明らかであるから、会社が時季変更権を行使し、これによりAが出勤した場合、やはり当日のAの本来の労務提供義務が存続しているものといえるので、この場合でも同様に右にいう特別の事情があるとはいえない。
 そうだとすると、Aが本件事故当日会社から特別の出勤命令を受けていたと同視しうる事情があつたので、前記特別の事情がある旨の原告の主張は採用しがたく、また、原告は、Aの通勤方法、通勤道路等の特殊事情も強調するが、これらの事情があつたとしても、Aの本件事故当日の出勤につき会社が支配管理を及ぼしていたものということはできず、他に特別の事情について原告の主張を肯認して前認定を覆えすに足りる的確な証拠はない。
 以上によれば、本件事故は、Aが労務を提供すべき日に、その場所まで出勤する途中で発生したもので、右特別の事情は認められないから、Aの出勤途中に同人が会社の支配管理下に入つていた(業務遂行性)とはいえず、よつて本件事故によるAの死亡は業務上の事由によるとはいえない。