ID番号 | : | 05187 |
事件名 | : | 遺族補償等不支給処分取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 橋本労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 交通の不便な山間僻地の発電所に勤務している電力会社の職員が、通常の通勤日にバスに乗り遅れたため自己所有の原動機付きの自転車を運転して自宅を出て出勤する途中に県道から転落して死亡した事故につき、業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法1条 労働基準法79条 労働基準法80条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 通勤途上その他の事由 労災補償・労災保険 / 通勤災害 |
裁判年月日 | : | 1978年11月30日 |
裁判所名 | : | 大阪高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和53年 (行コ) 28 |
裁判結果 | : | 取消(上告) |
出典 | : | タイムズ373号98頁/労働判例309号25頁/訟務月報25巻2号430頁 |
審級関係 | : | 上告審/05044/二小/昭54.12. 7/昭和54年(行ツ)24号 |
評釈論文 | : | 高須要子・法律のひろば32巻4号71頁 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-通勤災害〕 労災保険法は、昭和二二年制定以来昭和四〇年法律一三〇号、昭和四四年法律八三号、同八五号等により多くの重要な改正を経て、使用者を集団としてとらえることにより、その責任の拡大、徹底をはかるものとして、被災労働者の被つた損害の補償・個々の使用者の責任保険の性格から労働者の生活権の保障に向け踏み出したものということができる。本件災害発生時(前記四四年改正後)における「業務上」の解釈としては、個々の労使間の労働関係に基礎をおく損失補填の法理に厳格にとらわれることなく、労働関係に関連して発生した災害を労働者と使用者側(労災保険の実質的負担者)のいずれに負担させることがより合理的かの比較較量の上に立つて「業務上」の概念を合理的に拡大するのが妥当であつて、このことにより労災保険の給付対象の拡大を求める動向にも副い、また生活権保障の理念にも合致すると考えられる。 ことに通勤災害に関しては、昭和四〇年頃以降の高度経済成長の展開に伴う企業の都市集中、住宅立地の遠隔化、モータリゼーションの進展、交通災害の激増、等を背景に、通勤災害を業務上災害に含めて労災補償の対象とすべき旨の主張が注目されるようになり、昭和四五年二月発足の労働大臣の諮問機関である通勤途上災害調査会においても通勤災害の基本的性格につき、あるいは、通勤がなければ労務の提供があり得ないのであるから、通勤災害は業務上の災害とすべきであるとし、一方通勤は使用者の支配下にあるものでなく、使用者には災害予防の方法がないから、その途上における災害は業務外の災害であると、意見の対立をみながら、結局、通勤災害(当時労災保険の給付を受けるべきものを除く。)につき、労災保険制度を利用して業務上災害と概ね同水準の給付を行なうこととし、使用者は右に必要な保険料を全産業一律の料率で負担するものとすべき旨全委員一致の意見で労働大臣に報告し(昭和四七年八月二五日付報告書)、右報告と同旨の労災保険法の改正(四八年改正)がなされた。 通勤災害に関する四八年改正前の行政解釈による実務上の取扱は、労基法・労災保険法の被災労働者の損失補償を基本とする理解を前提として通勤災害それ自体は厳密には業務上といえないとの原則を維持しながらも、具体的事案については、利益較量上、使用者側に負担させることを相当とする特別の事情が見出される場合、特に業務上と認めて労働者の救済を図つているものということができる。 以上述べたところに従つて考えるに、通勤災害のすべてを業務上の災害とみることはできないけれども、業務上の災害の補償主体が実質的に、個々の使用者ではなく、企業一般及び国の費用拠出による労災保険制度自体に移行した前記四〇年、四四年改正以後の時点では、通勤途上での被災労働者の被つた損害について、利益較量上、使用者側にその責任を負担させることを相当とする特別の事情があると認められる場合は、業務上のものと認めるのが相当である。 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-通勤途上その他の事由〕 1 Aがバスに乗り遅れた後、本件原付車を用い順路により出勤行為に及んだことは、その中断を許さない職務の性質及び当日の人員の必要状況に照らすと、上司の指示がないとはいえ、企業の運営上当然期待される合理的行為であつて、右出勤は使用者の特命に基づく不時の出勤と同視することができる。 2 しかも、Aの勤務場所の位置からすると、日常の通勤についてもその方法に殆んど選択の余地がなく、いいかえると、Aは、B発電所に勤務することにより、会社に対し本件災害発生時の進行経路による通勤を義務づけられたといえ、その通勤途上の災害の危険は通常の労働者の通勤に比し著しく大きいものとみることができる。 もつとも、会社の予め指示する通勤方法は、日曜日にあつても当日乗車予定の路線バスによるものであるが、もともとバスも会社の支配下にあるわけでないから、その代替方法として本件原付車による通勤途上の災害もこれと区別すべきでない。路線バスによるか自己運転の原付車によるかは危険の程度に差があるが、この差異は、業務上・外の区別をもたらすものではない。しかも、Aはバスに乗り遅れた時点で、なお出勤を命ぜられたのと同視される状態にあるのである。この場合にあつても、会社としては、日曜日に社有車を配車し、あるいは配車可能の状態におき、私有車による災害を防止する手段がないわけではない。 以上の点を総合すれば、Aの本件通勤災害は、通常の通勤と異なる特別の事情があり、その危険が現実化したものであつて、会社にその責任を負担させるべき場合(もつとも、その原因の一半は、原判決判示の組合の「時間外休日労働等拒否闘争」にあつたというべきである。)ということができるので、労基法、労災保険法にいう「業務上(の事由による)」災害に該当するものといわなければならない。 |