ID番号 | : | 05204 |
事件名 | : | 療養補償給付等不支給処分取消等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 岐阜労基署長(大建設計)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 二メートルの高所から転落した労災事故のあと休業補償・療養補償給付が支給されてきたが治癒(症状固定)したものとして支給が打ち切られたのに対してその処分の当否が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法42条 民法724条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 時効、施行前の疾病等 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 休業補償(給付) |
裁判年月日 | : | 1988年11月17日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和57年 (行ウ) 46 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例531号80頁 |
審級関係 | : | 控訴審/最高一小/平 2.10.18/平成2年(行ツ)43号 |
評釈論文 | : | 大橋弘文・民事研修417号35~46頁1992年1月 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-休業補償(給付)〕 右認定したところによれば、原告は本件事故に起因して上肢のしびれ感や痛みの症状を発症したが、その治癒の時期は、遅くともA病院の最終診療日の昭和四五年六月八日であると認めるのが相当である。すなわち、労災保険法における治癒とは、医療効果が期待し得ない状態に至ったものであり、疾病にあっては急性症状が消退し、慢性症状は持続してもその症状が安定して固定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果がそれ以上期待し得ない状態になったときをいうと解される。これを本件についてみるに、原告のしびれ感や痛みはB病院退院時にはほとんどないと判断されるまでに軽減し、残存症状もA病院退院時の昭和四五年一月三一日には更に軽減したようであるとされていることからすると、右時点における症状の程度は軽いものと考えられるうえ、B病院、A病院及びC整形外科医院における原告のしびれ感及び痛みに対する治療は、類似の理学療法及び類似の効用を有する薬物療法であってその間にはほとんど差異がなく、また、その治療の時期及び期間を考慮すると、C整形外科医院での治療がA病院での治療に比べより有効なものであったとは考え難いのであって、そうすると遅くともA病院の最終診療日である昭和四五年六月八日には原告の症状は安定して慢性化し、治療を継続してもその効果を期待できない状態になり、治癒していたものと考えるのが相当である。 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-時効、施行前の疾病等〕 労災保険法は、その四二条に保険給付の受給権につき消滅時効の期間を規定しているものの、右期間の起算点についての規定を置いていないところ、右起算点については、一般原則である民法一六六条一項を準用し、権利を行使することができる時から進行するものと解される。この点につき、原告は、民法七二四条を準用し、本件障害補償給付請求権については、原告が本件事故に起因する疾病である右症状の治癒を覚知した昭和五三年九月二九日から起算すべきであると主張するが、前認定のとおり、原告の残存障害である上肢の痛みとしびれは、本件事故前にはなく、本件事故直後に発症し、そのまま継続し、固定するに至ったものであるから、その事故起因性は、発症後ただちに原告自身に覚知されたものと認められ、客観的には治癒の時点から補償給付請求権の行使は可能であったというべきであり、そうすると、原告の本件障害補償給付請求権は、遅くとも疾病が治癒していたと考えられる昭和四五年六月八日の翌日である同月九日から消滅時効期間が進行し、請求時である昭和五二年一〇月二一日には既に五年以上を経過し、時効により消滅したというべきである。 〔中略〕 原告が被告労基署長に請求した本件各請求のうち、【1】 休業保障(ママ)給付の請求は疾病の治癒した後の期間のものであり、【2】 障害保障給付の請求はその請求権が時効により消滅したものであり、また、【3】 療養保障給付たる療養の費用の請求は疾病が治癒した後のものであるうえ障害保障給付請求権が時効で消滅したものであって療養の費用と認められないものであるから、被告労基署長の本件処分に違法はなく、本件決定及び本件裁決について固有の違法事由は認められない。 |