全 情 報

ID番号 05206
事件名 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 東大阪労基署長(大喜工業)事件
争点
事案概要  建築用鉄骨の加工組立会社において右加工作業の残材整理作業中に一過性の心停止に基づく心不全を発症させ翌日に死亡するにいたった労働者につき、業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法16条
労働基準法79条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1989年1月26日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (行ウ) 70 
裁判結果 棄却
出典 労働判例534号48頁/労経速報1350号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 ところで前記二1認定の各事実によれば、Aの訴外会社における業務内容、業務量は特段過重な精神的、肉体的負担を伴う重労働というようなものではなく、また、同人が賃金面について若干の不満を有していたとしても、人的、物的な職場環境について格別不備、欠陥があったということはできず、結局同人の業務に起因して基礎的病態が著しく増悪したものと認めることはできない。
 次に同人の本件発作前一週間の勤務状況は、通常の労働態様と特段の差異はなく、特に過重な精神的、肉体的負担を生じるものではなく、本件発作当日の勤務はむしろ軽作業に属するものであり、ただ作業をしていた加工場の気温が四五度程度に上がってはいたが、夏期の鉄骨業者の加工場としては必ずしも過酷な職場であるということはできない。そうすると同人の本件発作当日及び本件発作前一週間の勤務が同人の基礎的病態を急激に著しく増悪し発症させ得るような過重なものであったと認めることはできないし、また、本件発作直前において同人に、業務と関連した突発的な出来事などが生じたものではないことも明らかである。
 以上によればAの本件発作は労基法施行規則別表第一の二の九の「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当するための新通達所定の要件を欠き、同人の本件発作及びそれに基づく死亡の業務起因性は否定されることになる。
 2 前記二2認定の各事実によれば、Aの死因は、断定することは困難であるが、急性心筋梗塞によるものと考えられるところ、右急性心筋梗塞の発症と同人の業務との間に因果関係の存在を認めるに足る事跡はなく、右急性心筋梗塞は、同人の喫煙、飲酒、加齢等の素因に基づく冠動脈の動脈硬化により生じたものと解すべきである。
 しかして右動脈硬化と同人の訴外会社入社以前及び入社後の業務との因果関係の存在は、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない(なお前記のとおり同人が同五七年六月七日健康診断を受けた際、血圧は最大値一三〇、最小値九〇であったというのであるから、動脈硬化はそれほど進行していなかったと解する余地もある。)。訴外会社が同五九年二月、開先加工機を購入設置したことによるAの業務量の増加は、右業務量増加の時期から同人の本件発作までの期間が約三箇月の短期間にとどまるものであることに徴し、右業務量増加を理由に業務と動脈硬化との因果関係の存在を肯定することはできないし、そのころから同人が訴外会社に対し強く不満を持つようになったのは直接には残業手当の不支給等賃金面での不満が中心となるものであり、業務の過重性までも推認させるものではない。
 以上説示のとおり、同人の本件発作に至るまでの業務がそれ自体単独で、又は同人の喫煙、飲酒、加齢等の素因と共働し、これらより相対的に有力な原因となって同人の冠動脈の動脈硬化を招き、或いは増悪させたと認めるに足りない。
 3 したがって、Aの死因が労基法施行規則別表第一の二の三の5の「身体に過度の負担のかかる作業態様の業務に起因することの明らかな疾病」及び同表第一の二の九の「その他業務に起因することの明らかな疾病」にあると認めることはできない。