ID番号 | : | 05227 |
事件名 | : | 療養補償給付等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 滝川労基署長(北星ハイヤー)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 虚血性心疾患の基礎疾病を有するタクシー運転手が勤務中(客待ち待機中)に発症した心筋梗塞により死亡したことにつき業務に起因するか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法12条の8 労働者災害補償保険法16条 労働基準法79条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1989年12月25日 |
裁判所名 | : | 札幌地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和59年 (行ウ) 13 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例556号47頁/労経速報1391号17頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 しかしながら、乗務開始時に観察されるノルアドレナリン濃度の上昇がどの程度の血管収縮作用をもたらし、具体的に勲の基礎疾病である虚血性心疾患をいかなる程度に亢進させたものであるかは、右原告の主張にそう各証拠によってもいまだ明らかではなく、右A証言によれば、A医師自身もBが本件発症時にタクシー乗務に従事していなければ本件発症の時点において本件発症に至らなかったとまでは断定しておらず、Bの本件発症を合理的に説明しようと試みたものであって、Bの冠状動脈の硬化度・閉塞度が判明していれば考えが変わる可能性があるとしていることが認められる。また、A証言並びに(証拠略)によれば、代表的な寒冷地である北海道において、循環器系疾患による死亡率が他の地域よりも高いという傾向は確認されていないことが認められるから、タクシー運転手が乗務開始時に受けるストレスに冬季における寒冷及び車内の垂直気温差によるストレスが加わるとしても、それが虚血性心疾患等の循環器系疾患をその自然的経過を超えて著しく増悪させるに至る程度のものとまではいえないと思われる。 したがって、Bの本件発症時の業務環境が基礎疾病である虚血性心疾患を自然的経過を超えて著しく増悪させ、本件発症に至らしめたと認めることはできず、原告の主張を採用することはできないというべきである。 (三) 原告は、会社としては、Bに対する定期健康診断の結果、高血圧や糖尿病を疑うべき事実が認められたのに、何らの処置も執らないまま業務に就かせていたものであり、この点からしてもBの業務と本件発症との間には相当因果関係があると主張する。 しかし、前記認定事実によると、会社においては、毎年春と秋に定期健康診断を実施しており、その結果では、Bは、昭和五一年一一月から境界域の高血圧を示し、検尿においては同五三年一一月から糖が検出されていることが認められるが、この時点において担当医師から精密検査や治療を必要とする旨の指示がなされた形跡はなく、会社の滝川営業所長としては、昭和五五年一〇月の検診時に、Bの血圧値、検尿結果(糖)が悪く、B自身からも同五二年以後高血圧症の治療を受けている旨の申告があるなどしたことから、Bに対し、高血圧症と糖尿病について治療を受けるように指示したものであることが認められ、これらの事実に照らして考えると、会社がBに関し健康管理を無視して業務に従事させていたとすることはできず、原告の右主張を採用することはできないというべきである。 9 まとめ 以上の理由により、Bは虚血性心疾患の基礎疾病を有していたところ、Bの業務が死亡直前において従前に比べ特に質的、量的に過激であったと認めることはできず、虚血性心疾患の基礎疾病が自然発症的に増悪し、たまたま業務遂行中に心筋梗塞として発症したものであり、業務と本件発症との間に相当因果関係があったとはいえないから、Bの死亡は業務上の事由によるものということはできず、本件処分は適法ということができる。 |