ID番号 | : | 05231 |
事件名 | : | 労災保険不支給決定取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 大阪中央労基署長(市田)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 紳士衣料販売会社部長の、勤務中に発症した脳内出血とその後の死亡につき業務に起因するか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法12条の8 労働者災害補償保険法13条 労働基準法75条 労働基準法76条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1990年1月26日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和62年 (行ウ) 40 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例556号32頁 |
審級関係 | : | 控訴審/大阪高/平 3. 3.22/平成2年(行コ)8号 |
評釈論文 | : | 新谷真人・季刊労働法156号138~139頁1990年8月 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 高血圧性脳内出血の場合、高血圧の増悪因子として、肉体的、精神的疲労の蓄積が考えられることが認められる。そうすると、本症の業務起因性を肯定するためには、基礎疾病であるAの高血圧症が、その従事していた業務を相対的に有力な原因として、肉体的、精神的疲労が蓄積し、自然的増悪の程度を越えて顕著に増悪し、本症発症に至ったと認められることが必要であると解するのが相当である。 〔中略〕 4 右認定事実によれば、Aは、通常午前八時三〇分ころ出社、午後六時ないし七時ころ退社していたもので、深夜に及んで残業をしていたことはほとんどなかったのであり、通勤時間が約一時間三〇分かかっていたことを考慮しても、特に肉体的負担を伴った業務に従事していたということはできず、また、Aは第五営業部長として、当面の手持在庫の処分、翌年度の予算編成等の課題を担っていたものの、これらは部長職としては通常のものと考えられ、他の点においては取引先との関係は良好であった等定男の業務は概ね順調に推移していたと認められるから、(証拠略)により認められる、昭和五四年ころ訴外会社において三名の部長が成績不振により部長代理に降格され、Aが精神的圧迫を感じていたであろうことを考慮しても、Aが日常特に精神的負担となるような業務に従事していたとはいえない。 さらに前記認定事実によれば、同五五年一二月定男が従事した日常業務外の北陸出張は、(証拠略)によれば、一部で取引が思うようにはいかなかったと認められるものの、それまでのAの経験に照らし、また、その期間、成果等に加え、天候状態も一部雨天であったことを除けば特に問題とする程のものではなかったこと等の事情に徴すれば、特に肉体的、精神的負担を伴っていたとはいえず、また展示会開催に伴う業務は、売上が思うように上がらなかったこと、退社時間が二ないし三時間遅くなっていたことが認められるものの、例年どおりのことであり、訴外会社においてこの種の催しは年六回開催されていること等から、日常業務のいわば延長としての色彩が強く、これをもってAに対し特に肉体的、精神的負担を課していたとも認め難い。そして前記認定のとおり、本症発症当日におけるAの行動は、全く日常的なものであった。 5 以上の認定説示を総合すれば、(証拠略)、原告本人尋問の結果によると、Aには高血圧症を除くとさしたる疾病歴はなく、また、酒、タバコの嗜好癖もそれほど強くなかったと認められることを考慮しても、Aの従事していた業務が相対的に有力な原因となって、肉体的、精神的疲労が蓄積し、既往の高血圧症が自然的増悪の程度を越えて顕著に増悪し、本症発症に至ったと認定することは困難である。 |