ID番号 | : | 05237 |
事件名 | : | 労働者災害補償給付に関する処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 大垣労基署長(山林労働者)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | チェンソー等を用いて立木伐採の作業に従事してきた山林労働者に発症した難聴につき、業務に起因するか否かが争われたケースで消滅時効の成立が問題となった事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法42条 労働者災害補償保険法35条2項 民法724条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 時効、施行前の疾病等 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 休業補償(給付) |
裁判年月日 | : | 1990年4月23日 |
裁判所名 | : | 岐阜地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和61年 (行ウ) 10 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例562号42頁/労経速報1406号18頁 |
審級関係 | : | 控訴審/05759/名古屋高/平 3. 4.24/平成2年(行コ)10号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-時効、施行前の疾病等〕 法四二条は、「(障害補償給付を受ける権利は)、五年を経過したときは、時効によって消滅する。」と規定しているところ、「時効によって消滅する。」という文言は通常消滅時効を意味するものであり、のみならず、法三五条二項は同条一項の規定する審査請求又は再審査請求が時効の中断に関しては裁判上の請求とみなされる旨を定めているのであって、しかも法は昭和二二年の制定以来数次の改正を経ており、四二条そのものも改正の対象となったにもかかわらず、当初から一貫して「時効によって消滅する。」という文言が使用されていることを総合勘案すると、法四二条は消滅時効を規定したものと解するのが相当である。 〔中略〕 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-休業補償(給付)〕 障害補償給付を受ける権利(以下、便宜上「障害補償給付請求権」という。)は、法一二条の八第二項、労働基準法七七条によれば、「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、治ったとき身体に障害が存する場合」に発生すると解されるところ、右にいう「治ったとき」とは、症状の安定、すなわち、その症状が固定し、以後の医療効果が期待しえなくなった状態をいうものと考えられる。 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-時効、施行前の疾病等〕 障害補償給付の対象となる障害の中にはその業務起因性が明白でなく、専門的、医学的な鑑別診断を経るなどして初めて被災労働者が業務起因性を認識することができる場合も少なくはないことは裁判所に顕著な事実であって、このような場合に、当該労働者が業務起因性を認識する前に補償給付を請求することは、現実的には全く不可能である。このことは、不法行為の被害者において、加害者、損害の発生、加害行為の違法性及び加害行為と損害の相当因果関係の全てを認識するまでの間、加害者に対し損害賠償請求を行うことが事実上できないのと同様である。このような場合にも、法四二条の消滅時効は進行するとするならば、現実的には当該労働者が補償給付を請求することができなかった間に時効が完成してしまう場合も少なからず生じるわけであり、このような事態は主として労働者の救済を目的とする法の趣旨に副わないものというべきであって、これらを総合考慮すれば、法四二条の消滅時効は、民法七二四条の類推適用により、当該労働者において障害の業務起因性を認識したときから進行すると解するのが相当である。 〔中略〕 原告は、騒音性進行性難聴の可能性もあるから症状固定時を職場離脱時に限定すべきでないと主張するが、前述のとおり騒音性進行性難聴や騒音性遅発性難聴の存在はまだ医学上の知見として承認されているとはいい難く、しかも原告本人尋問の結果中にも聴力障害の程度は就労の約二ないし三年後からあまり変化はないようだとの部分もあることなどを総合すると、症状固定時は騒音職場離脱時と推認することに格別の不都合を見出すことはできず、原告の右主張はこれを採用することはできない。 したがって、仮に原告の聴力障害が業務に起因するものであったとしても、これにかかる障害補償給付請求権は遅くとも昭和四九年一一月末日から五年後である昭和五四年一一月末日の経過をもって、時効により消滅していたものというべきである。 |