全 情 報

ID番号 05245
事件名 労災保険審査決定取消請求事件
いわゆる事件名 労災保険審査会事件
争点
事案概要  障害等級一四級九号に該当するとして障害補償を受けているものが、自己の障害を頑固な神経症状に当るものであり少なくとも一二級一二号に該当するとして争った事例。
参照法条 労働基準法77条
労働者災害補償保険法施行規則別表1.第12級12号
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 障害補償(給付)
裁判年月日 1958年9月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和32年 (行) 40 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集9巻5号824頁/訟務月報5巻1号86頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-障害補償(給付)〕
 ところで一二級一二号にいう頑固な神経症状とはどのような場合を指称するかの点を考察するに、鑑定人Aの鑑定の結果によれば、治癒当時受傷部位に残存する疼痛等の神経症状がその後六ケ月以上経過しないと消退する見込がないばかりでなく、その症状が骨折、骨膜損傷、内出血、化膿等による器質的な異常に起因すると診断される医学的根拠を要するものと解すべきであり、またこの解釈は障害等級表の設定された趣旨と一二級一二号に規定された他の症状との比較均衡上相当と考えられる。
 しかるところ前記B医師の診断は証人Cの証言によれば、原告からの疼痛の訴が医学的常識を遥に超える高度のものであつたので受傷部位に骨膜の損傷あるものと推定しこれに起因した疼痛と判断したことが認められる。
 ところが前記A鑑定人の鑑定の結果によれば、原告の受傷部位のレントゲン写真(検乙第一ないし第四号証)によつて骨膜の損傷を認め得られないと診断するのが相当であるので、B医師の骨膜損傷を推定する旨の診断は正当なものということができず、したがつて乙第一号証の前記記載は採つてもつて原告の主張するように受傷部にがん固な神経症状を残す旨の事実を認むべき資料となすに足りない。
 その他原告の立証によつても原告の障害が骨折、骨膜損傷、内出血、化膿等の器質的異常に原因することを認めるに足りないばかりでなく、却つてA鑑定人の鑑定の結果によれば、前記レントゲン写真によつて原告には足の血管に動脈硬化のあることが診断され、この血管の病的現象の故に同鑑定人が昭和三三年六月一六日頃原告を診察した際にも原告は受傷部に疼痛を訴えたこと、したがつて原告の受傷部の疼痛は骨折等器質的異常のない限り二、三週間の治療により治癒消退すべきところ、動脈硬化なる病的原因のため疼痛の消退が遅延していることを認めることができる。
 してみれば現に原告が受傷部に疼痛を覚えるとしても、その症状は動脈硬化が原因であるというべきでありかつ骨折骨膜損傷等の器質的異常に原因するものでもないから、その症状は一二級の一二号に該当するというに足りない。