全 情 報

ID番号 05250
事件名 遺族補償給付等不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 中野労働基準署長事件
争点
事案概要  コンクリートブロックの積卸し作業に従事していた労働者のくも膜下出血を原因とする急性心不全による死亡につき、業務起因性があるとされた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1989年10月26日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (行コ) 47 
裁判結果 棄却(確定)
出典 訟務月報36巻4号664頁
審級関係 一審/05099/長野地/昭62. 4.23/昭和57年(行ウ)5号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 10 同三四枚目表末行冒頭の「3」を「2」に、同行目「本件疾病」を「Aの直接の死因である急性心不全の原因である脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血(以下『本件疾病』という。)」にそれぞれ改め、同裏二行目末尾「第一六号証、」の次に「〈証拠略〉」を、同三行目「乙第二〇号証」の次に「〈証拠略〉」を、同行目「B」の次に「〈証拠略〉」を、それぞれ加え、同四行目末尾(編注・同九行目から一〇行目)「Aの直接」から同末行末尾「認められる。」までを以下のとおり改める。「本件疾病は、脳動脈(椎骨または脳底)の血管の分岐点付近に生じた瘤が破裂したものと推認されるところ、右のような脳動脈瘤の成因は、四〇才以降の年齢に多発する脳動脈瘤についても、なお脳動脈の分岐点付近に血管中の中膜の欠如等で先天的に弱い構造になっている部分があると、そこに血液の流れが絶えず衝突し、圧力が加わる等の影響により瘤が生成するとするなど、先天的な要因が基底に存すると考えられているが、しかし反面加齢にともなう動脈の硬化、血管の脆弱化、高血圧等の影響を無視する説は少なく、特に近年、右中膜等の存否とは関係なく、高血圧症に代表される血管障害因子(加齢等による血管の脆弱化も当然含まれる。)が脳動脈瘤の発生、増大因子となるとの後天説も有力であること、いずれにしてもいったん発生した脳動脈瘤には、老齢化による動脈硬化及び血流・血管内圧の増大による瘤(血管)の壁の変化・脆弱化、高血圧(血圧そのものの変動)等の因子がいずれもこれを増悪させ、破裂させる方向に働くこと、脳動脈瘤の壁の血管が極めて脆くなったりするとわずかの刺激もしくはこれという刺激がなくとも、破裂する場合もあると考えられていること、しかし、もとより肉体的労働、精神的緊張(ストレス)等に起因する一過性の血圧亢進も、脳動脈瘤の増悪、破裂の原因となること(マコーミックはこれを否定するが、少数説のようである。)、もっとも現在でも、その発生部位が脳動脈であり、しかも瘤自体が非常に小さいことから、事前に脳動脈瘤を発見することも難しいうえ、ましてその脆弱化、破裂の危険度等を測定し、これを判定することはほとんど不可能であり、したがって事前の治療をすることは難しく、脳内に出血してから、その診断・治療(手術的)がなされる場合がほとんどであること、Aの場合も普段の血圧はやや高かったにせよ、およそ脳動脈瘤の存在を予知できるような兆候はなかったこと、そもそも脳動脈瘤の発生、進展、破裂にいたる経緯や、発生したもののうちどのくらいのものが破裂するに至るのか等については解明されていない部分も多く、また専門の医学者の見解の分かれているところでもあること、以上の事実が認められる。」
 11 同三五枚目表一行目「(特発性くも膜下出血)」を削除し、同七、八行目「解すべきである。」の次に以下のとおり加える。
 「そして、業務が相対的に有力な原因であったかどうかは、医学的知見も一つの有力な資料として、本件疾病の発生に関連する一切の事情を考慮し、経験則上当該業務が、自然的経過を越えて、本件疾病を発症させる危険が高いと認められるかどうかによって判断すべきである。」
 12 同三五枚目表一〇行目「経過、」の次に「通常従事していた作業形態、手降ろし作業の回数、その他本件当日の作業、これを取り巻く状況、」を、同行目「本件疾病の特質に」の次に「〈証拠略〉、」を、同行目「証人B」の次に、「、当審証人C」を、同一一、一二行目「手降ろし作業は」の次に「一般に予測されるほどには間知ブロックを運搬するという作業は含んでいないものの、これを支え降ろす作業を中心に考察しても、」をそれぞれ加え、同裏三行目「熟練や慣行化は見られず」を「習熟の程度はそれほど高かったものとは考えられず」に、同六、七行目「平常より密度の高い作業と平常より過重な負担のかかる」を「特にAの年齢も考慮すると、一般的に見て過重な負担のかかる」に、同七行目「手降ろし法は」を「手降ろし作業は」にそれぞれ改め、同八行目「たりうること」の次に「、特に本件助義の場合は、トラック荷台の山側に積まれた間知ブロック六二個を降ろしたあと、谷側に積んであったブロックを、荷台上山側まで抱えて運び、二個は降ろしたあと三個目を運び降ろそうとしていた、すなわちそれまで以上に重い労働に従事し始めた直後というのであるから、従前の労働による一時的亢進に加えて、さらに右血圧の一時的亢進があったこと」を、同行目「認められるから、」の次に「それまで断続的に行われていた間知ブロックの手降ろし作業による一過性の血圧亢進により、日常生活及びその他の通常の作業中に生ずる血圧の変動等による自然的経過を越えて、かねてAに形成されていた脳動脈瘤の壁の変化ないし脆弱化の増悪が生じていたところ、さらに」を、同一〇行目「形成」の次に「、増悪」をそれぞれ加え、同一一行目「至ったもので」を「至ったことが認められる。」に改める。
 13 三六枚目表一行目「Aの」の次に「断続的に行われた間知ブロックの手降ろし作業及び」を、同行目「業務の遂行が、」の次に「少なくともその自然的経過を越えて、脳動脈瘤を増悪させ、これを破裂させる有力な原因を与えたものであり、」をそれぞれ加える。
 14 同三六枚目表二行目の次に改行して以下のとおり加える。
 「〈証拠略〉には、臨床的に見て脳動脈瘤破裂の発症が一過性の血圧上昇がある場合にかぎらず、また脳圧については自動調節機能があり、血圧の上昇がそのまま脳圧の同程度の上昇をもたらすものではない(〈証拠略〉)、Aの本件事故発生時の作業はそれほど重労働とは思えないなどと供述する部分がある。最後の部分は同証人の印象(しかもAの倒れたときの状況など、一部は誤った認識に基づいている。)に過ぎないが、同証人自身右作業で血圧(脳圧についての調整機能を考慮しても)の一時的亢進のあること、またそれが脳動脈瘤を破裂させる可能性のあることは争わず、ただ、右作業に従事していなくとも脳動脈瘤の破裂が発症した可能性について言及したもので、必ずしも前記認定を履すほどのものではない(自然的経過によっても発症した可能性を全く否定できるわけではないが、しかし、前記認定の諸事情からすると、なお業務が相対的に有力な原因であると認めるのが相当である。)と解せられる。」
 15 同三六枚目表八行目「であるが、」の次に「Aの老化及び日常生活等における血圧の変動によりその脳動脈瘤の壁が極めて脆弱化し、自然的経過もしくはそれに準ずるような刺激でも破裂するに至る程度になっていたと考えるよりも、前認定の本件疾病の発症するまでの作業形態からすると、前記業務による血圧の一時的な亢進が動脈瘤の増悪、破裂をもたらし、本件疾病を発症させたと認めるのが相当であるから、」を加える。