全 情 報

ID番号 05255
事件名 破産債権確定請求事件
いわゆる事件名 丸松足立商店事件
争点
事案概要  退職金規定が明らかではないが、原告請求の退職金算定にもとづく請求を認容し、得意先に関する不良債権発生を理由とする懲戒解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3の2号
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
裁判年月日 1990年3月14日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 9464 
裁判結果 認容
出典 労働判例561号48頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 3 原告の担当していた得意先に関し不良債権が発生したことは右認定のとおりであるが、右得意先の倒産原因や右不良債権発生について原告の判断の誤りの有無及びその程度などについて、被告から具体的な立証はなく、加えて右2(5)のとおり原告は内規や上司の指示に違反したとは認められないことからして、原告が不良債権を発生させたことをもって、原告のこれまでの勤続の功労を抹消し、退職金の不支給を正当化ならしめるほどの信義に反する行為とは解することはできないから、懲戒解雇相当行為とはいえず、被告の右事由による退職金の不支給の主張は失当である。
 4 (証拠略)によれば、昭和五八年に東京支店の経理担当の一従業員が、切手や収入印紙等を購入した際、郵便局発行の領収書の金額欄の数字を変造して、実際に購入した金額より多額の金員の出金伝票を作成して会社に請求し、約七〇万円をA商店から詐取したこと、原告は、東京支店の責任者として同従業員から提出された出金伝票を確認のうえ、承認印を押していたこと、原告は右不正について発見できず、本社で偶然発見したこと、同従業員から一万円位の弁償はなされたが、その余の弁償はなされていないことが認められる。
 原告は東京支店の責任者であり、領収書の変造を発見できなかったわけであるが、その方法は領収書の金額欄の数字を変造したもので容易に発見できるものとはいい難いから、右不正を発見できなかったことをもって懲戒解雇相当行為であるとはいえない。
 5 (証拠略)によれば、A商店では、前記不良債権の発生や経理事務員の不正を理由として、原告の降格を決定し、昭和五九年一月ころ同人に対し、新たに福岡に設置する九州支店への転勤を求めたが拒否されたため、代案として名古屋支店への転勤を求めたが、原告は再度拒否し、同年二月初旬ころ退職願いを提出し、同月二〇日をもって退職したことが認められるところ(この認定に反する原告本人尋問の結果、第一、二回は採用しない)、転勤を拒否して退職した以上、転勤拒否それ自体によって会社に損害が生じたとは認められないから、転勤拒否をもって懲戒解雇相当行為であるとはいえない。
 6 前記不良債権の発生、部下の経理事務員の不正の不発見、転勤拒否を総合しても懲戒解雇が相当であるとは認められず、懲戒解雇を前提とする被告の主張は失当である。