ID番号 | : | 05258 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日鉄鉱業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 坑内における削岩作業に従事していた者のじん肺罹患につき、会社に安全配慮義務違反があるとして、損害賠償請求が認容された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法415条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償 |
裁判年月日 | : | 1990年3月27日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和57年 (ワ) 4889 |
裁判結果 | : | 一部認容棄却(控訴) |
出典 | : | 時報1342号16頁/タイムズ722号168頁/労働判例563号90頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 奥田昌道・判例評論380〔判例時報1355〕192~197頁1990年10月1日/岩出誠・ジュリスト996号116~118頁1992年3月1日 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 1 使用者の義務 当該作業に従事する労働者がじん肺に罹患するおそれがあると認められる作業(以下「粉じん作業」という。)を行う事業者と労働者との間において、労働者を常時粉じん作業に従事させることを目的とする雇用契約(以下「粉じん作業雇用契約」という。)が締結された場合、当事者が主たる給付義務として労務提供と報酬支払の各義務をそれぞれ負うに至るのみではなく、少なくとも旧じん肺法が施行された後においては、使用者(以下「粉じん作業使用者」という。)は、粉じん作業に従事する労働者(以下「粉じん作業労働者」という。)に対し、労働者をじん肺に罹患させないようにするため、当該粉じん作業雇用契約の継続する全期間にわたって、絶えず実践可能な最高の水準に基づく、(一)当該粉じん作業労働者が作業に従事する作業環境の管理、すなわち、(1)作業環境における有害かつ吸入性のある粉じんの有無ないしその量を測定し、(2)この測定結果に基づき安全性の観点から当該作業環境の状態を評価し、(3)この評価の結果安全性に問題があるときには、当該危険を除去するため若しくは安全性を向上させるために、【1】粉じんの発生、飛散を抑制するため湿式削岩機の使用、発じん源に対する散水等の措置を講じ、【2】発生した粉じんの希釈、除去のため換気又は通風の措置等必要かつ適切な措置を講じること(これらをまとめて以下「作業環境管理」という。)、(二)当該粉じん作業労働者の作業条件の管理、すなわち、(1)有害粉じんの吸入による人体に対する影響をなくすため作業時間(粉じんに暴露される時間)、休憩時間、休憩場所の位置・状況等(以下「作業条件」という。)について必要かつ適切な措置を講じ、(2)粉じんの吸入を阻止するために有効でありかつ当該粉じん作業労働者が装着するに適した呼吸用具を支給し、これを装着させること等の措置をとること(これらをまとめて以下「作業条件管理」という。)、(三)当該粉じん作業労働者の健康等の管理、すなわち、(1)粉じん作業労働者に対し、【1】粉じん及びじん肺の危険性並びにその予防について一般的な教育を行い、【2】当該粉じん作業労働者の作業現場における粉じん測定の結果及びこれに基づく危険の程度を知らせ、マスクの使用方法・保守管理等について教示し、(2)じん肺の専門医による粉じん作業労働者の健康診断を適時に行い、じん肺の早期発見及び配置転換によるじん肺の重症化への進行を阻止する措置を講じること(これらをまとめて以下「健康等管理」という。)等を履行する義務を負担したものと解すべきである。その理由は、次のとおりである。 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕 (三) 次に特別支給金規則に基づく特別支給金について検討する。 (1) 休業特別支給金、傷病特別支給金、傷病補償年金等の特別支給金は労災保険法二三条に定める労働福祉事業の一環として支給されるものではあるが、介護料、労災就学援護費等特定の限定された目的のために支給される金銭的援護とは異なり、労災保険法一二条の八所定の保険給付(以下「本来的保険給付」という。)と一体的に定型的かつ画一的に支給されるものである。すなわち、まず休業特別支給金は、労働者が業務上の負傷又は疾病に係る療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から給付基礎日額(原則として労働基準法一二条の平均賃金に相当する額であり、休業補償給付の支給額算定の基礎となる給付基礎日額と同じである。労災保険法八条一項)の二〇パーセントに相当する額を支給するものであるが(特別支給金規則三条一項)、これは本来的保険給付である休業補償給付(同法一四条一項)と支給事由を同じくし、同給付の給付率を引き上げたと同じ役割を果たしているものである。また傷病特別支給金は、労働者が業務上の負傷又は疾病に係る療養の開始後一年六か月を経過した日において、当該負傷又は疾病が治っておらず、かつ、当該負傷又は疾病による障害の程度が傷病等級に該当するとき、又は同日後右のいずれにも該当することとなったときに、当該傷病等級に応じ、一級に該当する障害の状態にある者(以下「一級障害者」といい、他の級に該当する者についても同様に表示する。)には一一四万円、二級障害者には一〇七万円、三級障害者には一〇〇万円を支給するものであり(同規則五条の二第一項)、傷病特別年金は、労災保険法の規定による傷病補償年金又は傷病年金の受給権者に対し、当該傷病補償年金又は傷病年金に係る傷病等級に応じ、一級障害者には算定基礎日額(原則として負傷又は発病の日以前一年間に当該労働者に対して支払われた特別給与(労働基準法一二条四項の三か月を超える期間ごとに支払われる賃金をいう。)の総額を算定基礎年額とし、これを三六五で除して得た額であるが、右特別給与の総額を算定基礎年額とすることが適当でないと認められるときは、労働省労働基準局長が定める基準に従って算定する額を算定基礎年額とし、これを三六五で除して得た額である。同規則六条一項、五項)の三一三日分、二級障害者には二七七日分、三級障害者には二四五日分を支給するものであるが(同規則一一条一項)、これらも本来的保険給付である傷病補償年金(同法一二条の八第三項)と支給事由を同じくし、同年金の給付率を引き上げたと同じ役割を果たしているものである。殊に、傷病特別年金は、本来的保険給付である傷病補償年金又は傷病年金の算定にあたって考慮されない賞与部分を基礎に算定される、いわゆるボーナス特別支給金の一つであり、傷病補償年金又は傷病年金の加給金的性格をもつものであることは否定できない。右のように、特別支給金は、本来的保険給付と支給事由又は支給額において密接不可分に定型的かつ画一的に支給されている。 (2) 機能的には、特別支給金は、本来的保険給付の給付率を引き上げたと同じ役割を果たしており、同給付を補う所得的効果をもつものである。 (3) また、特別支給金の財源は本来的保険給付と同じく事業主の支払う労災保険料の中に求められているのである(労災保険法二六条)。 (4) さらには、使用者行為災害の場合に、被災労働者が当該負傷又は疾病につき事業主の負担する保険料に基づく特別支給金の支給と損害賠償を取得することは、二重の填補を受ける結果となることが明らかである。 以上の諸点を考慮すると、特別支給金も本来的保険給付と同様受給権者に対する損害の填補の性質をも有するものと解するのが相当である。 したがって、原告らがすでに政府から支給を受けた特別支給金の金額は、前示の本来的保険給付と同様に、原告らの逸失利益額からこれを控除すべきである。 |