全 情 報

ID番号 05261
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 大有社事件
争点
事案概要  「振替休日の期限内消化の徹底をはかることとし、期限内消化の努力を傾注してもなお残る場合は時間外手当処理する」旨の規定につき、休暇取得や遅刻・早退をするときはこの振替休日を利用しなければならないとしたが、一定の時間外手当請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法35条
労働基準法37条
体系項目 労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外労働、保障協定・規定
休日(民事) / 休日の振替え
裁判年月日 1990年3月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 10141 
平成1年 (ワ) 4014 
裁判結果 一部認容棄却
出典 労働判例561号36頁/労経速報1397号5頁
審級関係
評釈論文 小西國友・ジュリスト972号139~141頁1991年2月1日/野間賢・季刊労働法156号148~149頁1990年8月
判決理由 〔労働時間-時間外・休日労働-時間外労働、保障協定・規定〕
〔休日-休日の振替え〕
 1 本件基準(8)項は「振替休日の期限内消化の徹底をはかることとし、期限内消化の努力を傾注してもなお残る場合は時間外手当処理する」旨定めているところ、その文言からして、三か月間の期限内に振替休日を取得することが原則であり、時間外手当処理は例外的措置というべきである。そして五八年協定には「労使双方が期限内消化への努力を傾注しても残る場合」と規定されており、本件基準は右協定を基にして作成されたものであるから、本件基準(8)項も同趣旨の規定と解すべきであり、被告及び従業員の双方に、振替休日を三か月の期限内に取得するよう努力する義務があるというべきである。
 2 被告も振替休日の取得を可能とする体制をつくる義務を有するから、被告において、抽象的、一般的方策ではなく、休日出勤した当該従業員が三か月以内に何ら支障なく振替休日を取得できるような具体的かつ現実的な方策を整えたのにもかかわらず、当該従業員が敢えて振替休日を取得しなかったという例外的な場合を除いては、被告は時間外手当を支給すべきであると解される。被告は、従業員が勤務の都合上振替休日を取得できたのに取得しなかった場合には、時間外手当処理を要しないと主張するが、右解釈によると、現実の職場では振替休日を取りにくい雰囲気があり、仕事上他の従業員との連携を要する場合や顧客との関係から休みにくい状況が存するにもかかわらず(この事実は〈証拠略〉により認められる)、振替休日取得の責任を従業員にのみ負わせ、三か月以内に取得しない場合には、振替休日も時間外手当も喪失するという一方的に従業員に不利な結果を生じさせることになり、振替休日の取得が被告及び従業員の双方の努力によりなされるべきであるとの前記認定の趣旨に反するから、本件基準の解釈としては妥当なものとはいえない。
 3 そして、三か月以内に振替休日を取得することは従業員の義務でもあるから、本件基準(8)項の趣旨からして、休暇を取得しようとする場合や半日単位以上の遅刻や早退をする場合には(振替休日は半日単位でも取得できる)、それは振替休日として申請すべきであり、振替休日が存するのにかかわらず、振替休日申請をせず、年次有給休暇や半日単位以上の遅刻や早退の申請をして勤務しなかったときには、右(8)項の「期限内消化への努力を傾注してなお残る場合」には該当せず、被告は時間外手当の支給を要しないと解するのが相当である。
 〔中略〕
 3 被告は原告Xは三か月以内に振替休日を取得できるのに取得しなかったから、時間外手当請求権はない旨主張するが、前記の認定判断のとおり右被告の主張は採用できず、被告において同原告に対し、三か月以内に何ら支障がなく振替休日を取得できるような具体的かつ現実的な方策を整えたのにかかわらず、同原告が敢えて振替休日を取得しなかったという例外的な場合には、時間外手当請求権はないと解されるところ、同原告の場合右例外的な事情の存したことを認めるに足る証拠はないから、前記七日から同原告が振替休日を取得したことを自認している二日を引いた五日分に対する時間外手当が支払われていないことになる。