ID番号 | : | 05263 |
事件名 | : | 賃金支払等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 国鉄直方自動車営業所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 労働者が年休権を成立させておきながら、年休権が発生しなかったならば負担していたであろう本業の業務を阻害する意図を持ち、現にその業務を阻害するに至る行為に出たときは年休権の成立は否定されるべきであるが、労働日のうち勤務時間外の時間についてはその成立になんら関係はないとし、時限ストに際しての職場集会に参加して演説等をした労働者につき、年休権成立を否定して賃金カットをしたことが違法とされた事例。 公労法違反のストライキに関して積極的に指導・支援等をした者に対する減給等の懲戒処分が有効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法39条3項 労働基準法89条1項9号 公共企業体等労働関係法17条 |
体系項目 | : | 年休(民事) / 年休権の法的性質 年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 一斉休暇闘争・スト参加 年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 違法行為への参加 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動 |
裁判年月日 | : | 1990年3月30日 |
裁判所名 | : | 福岡地直方支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和60年 (ワ) 104 |
裁判結果 | : | 一部認容棄却 |
出典 | : | 労働判例561号28頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 水町勇一郎・ジュリスト981号122~124頁1991年6月15日 |
判決理由 | : | 〔年休-年休権の法的性質〕 〔年休-年休の自由利用(利用目的)-一斉休暇闘争〕 〔年休-年休の自由利用(利用目的)-違法行為への参加〕 2 そこで先づ本件賃金カットについて検討するに、労働基準法が定める年休制度は、労働者が使用者に対し就労義務を負担する労働日のうち、あらかじめ定められた一定日数の範囲内で、労働者が特定労働日を年休として時季指定権を行使すれば、使用者において適法な時季変更権の行使がない限り、当該特定労働日は年休権が成立し、就労義務は免除されるが出勤したものとみなされて使用者は賃金を支払うべきものとする制度である。しかして、労働者が使用者に対して労働日として就労義務を負担するのは、勤務時間内での就労義務であって、年休権の成立により就労義務が免除されるのも勤務時間内であるといえるから、年休権が成立すれば、労働者は勤務時間内の時間を自己の責任において自由に使用できるものであるが、年休制度が就労義務から解放されながら賃金の支払を受けるものとする制度の性質から、年休権の成立の前後をとわず、労働者において年休権を成立させておきながら、年休権が成立しなかったならば負担したであろう本来の業務を阻害する意図をもち、かつ、現にその業務を阻害するに至る行為に出たときは、最早年休権が成立しているものとしてこれを保護する必要はないものというべきである。右とことなり、労働日のうち勤務時間外の時間については、年休権の成立の有無とは何等関係のない時間であるから、勤務時間外の時間における労働者の行為如何により有効に成立した年休権の効力が左右されるものではないものとみるべきである。これを本件についてみるに、前記認定事実によれば原告らは本件ストの日は本件年休を適法に取得し、本件ストと同時間帯に行なわれた職場集会等に参加して本件スト等の指導等の活動を行ったものであるけれども、原告X1については、本件ストの時間帯は同原告の本来の勤務時間内であったものの、右行為から、同原告が本来の勤務時間に就労すべき一〇一行路の業務の正常な運営を阻害する意図をもち、かつ、右行為に出たことにより現にその業務を阻害するに至ったものと認めるに足りる証拠はなく、原告X2、同X3については、本件ストの時間帯はいずれも同原告らの本来の勤務時間内ではなかったのであるから、前記説示したところによれば、原告らの右各行為により本件年休の効力は何ら左右されるものでないものというべきである。そうすると、原告らは違法な争議行為に参加したものであり、本件年休は違法な争議行為に参加する目的のものであったから、正当な年休権の行使とは認める余地がないものであるとの被告事業団の主張はこれを採用することができないから、右主張を前提に、本件ストの日の予備勤務に一日就かなかったとしてなした本件賃金カットは何等理由がないものである(もっとも、このことは本件年休等の自由な利用の内容が、年休制度とは別の視点から当不当、適法違法等の評価を受けることまでも否定するものではない。)。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕 3 次に本件懲戒処分について検討するに、前記認定事実によれば、原告らは昭和六〇年八月当時、国労直方班のいわゆる三役の地位にあったものであるところ、原告らは本件ストの参加者(対象者)ではないものの、国労が同年八月五日の時限スト決定をなした後である同年七月二四日、共に年休の申込みをなして本件ストの日に本件年休を取得し、原告X1は、国労直方班班長として本件ストに先だち、所属組合員に対し、本件ストの際の職場集会参加を呼びかけ、本件ストの実施により直方自動車営業所における業務の正常な運営が阻害されること、また、本件ストと同時間帯に同営業所構内において開催された本件スト参加者を含む参加者約五〇名にのぼる職場集会や、同職場集会参加者による同営業所事務室内での暫時の滞室により、同営業所における職場規律がみだされることを了知のうえで、意思相通じ、当局の警告を無視して本件スト並びにその際の職場集会等を積極的に指導、支援、激励等をなしたものと認めるのが相当であるから、原告らの各行為は、少くとも就業規則第一五号規定の「職務上の規律をみだす行為のあった場合」、同第一七号規定の「その他著しく不都合な行為のあった場合」に該当するとみるのが相当である。しかして、原告らが主張する不当労働行為意思の存在或いは懲戒権の濫用事由はこれを認めるに足りる十分な証拠はないから、国鉄が、国鉄法第三一条第一項第一号により、原告らを本件懲戒処分に付したのはこれを正当として是認すべきものである。 |