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ID番号 05279
事件名 割増賃金等請求事件
いわゆる事件名 高知県観光事件
争点
事案概要  歩合給の場合に割増賃金を含めたものとして支払う方法自体は労基法三七条に違反するものではないが、右の支払方法が適法とされるためには割増賃金相当分がそれ以外の賃金と明確にならなければならず、本件支払方法はこれが対照不可能であり、この支払方法を定めた労働協約は無効とされた事例。
参照法条 労働基準法13条
労働基準法37条
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定方法
裁判年月日 1989年8月10日
裁判所名 高知地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (ワ) 666 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働民例集40巻4・5合併号494頁/タイムズ724号198頁/労働判例564号90頁/労経速報1404号3頁
審級関係
評釈論文 高島良一・経営法曹101号72~96頁1992年10月/松本光一郎・平成2年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊762〕346~348頁1991年9月
判決理由 〔賃金-割増賃金-割増賃金の算定方法〕
 労働基準法三七条は、法定外労働に対して通常時間の賃金の一定率以上の割増賃金を支払うべきことを使用者に義務づけることによって、同法の規定する労働時間制の原則の維持を図るとともに、過重な労働に対する労働者への補償を行おうとする趣旨のものであるから、少なくとも同条所定の最低額の賃金が割増賃金として支払われればその趣旨は満たされ、それ以上に、割増賃金の計算方法や支払方法を同条の予定しているとおりに履行することまでも義務づけているとはいえない。したがって、本件のような歩合給制の場合に、計算等の便宜上、割増賃金の支払方法として、通常時間の賃金と割増賃金とを合わせたものを一定の賃率による歩合給とし、これを一律に支払うという形式をとること自体は、歩合給に割増賃金が含まれていることが明らかである以上、直ちに同条に違反するものではないと解すべきである。しかしながら、そういう支払方法をとり、歩合給に割増賃金が含まれているとしても、同条及び同法施行規則に定める計算方法により算出された現実の法定外労働時間に対応した割増賃金の額が右の含まれている割増賃金相当額を超えている場合には、その不足分を支給すべきことは当然であるから、右支払方法が適法であるためには、歩合給の中のいくらが割増賃金にあたるかをそれ以外の賃金部分と明確に区別することができ、その割増賃金相当部分を控除した基礎賃金(これが通常時間の賃金にあたる。)によって計算した割増賃金の額と右割増賃金相当額とが比較対照できることが必要であるといわなければならず、割増賃金の支払方法について、そういう比較対照をすることができないような定め方をした労使間の協約は、結局、割増賃金は支払わないということに等しく、同条の趣旨を没却するものとして、違法であり、同法一三条により無効であるというほかない。しかるところ、被告の主張する一律歩合給制では、その主張自体からして、本件歩合給の中のいくらが割増賃金にあたるのかを確定できないというのであるから、仮に、原告らと被告間に一律歩合給制の合意があったとしても、右説示に照らして無効というほかなく、その結果として、本件歩合給に割増賃金が含まれているとみることはできないというべきである。