ID番号 | : | 05281 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ヒノヤタクシー事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 嘱託から一般乗務員に転換するに際して試用期間を設けることは許されないとされた事例。 約二年半の間に六回の事故を引き起こしたことを理由とするタクシー運転手に対する解雇が無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法21条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量 |
裁判年月日 | : | 1989年8月16日 |
裁判所名 | : | 盛岡地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和62年 (ワ) 325 |
裁判結果 | : | 一部認容却下 |
出典 | : | 労働判例549号39頁/労経速報1383号13頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-試用期間-法的性質〕 二 試用期間の定めについて 雇用の開始に当たり、試用期間を設けることは当然に許されることである。しかし、雇用が継続中に試用期間を設けることは、試用という文言それ自体の趣旨から、原則として許されないものと解すべきである。このことは、労働者の合意があっても同様である。ただ、タクシー運転手として雇用されていたものが一般の事務員となり、あるいはその逆の場合のように新たに雇用したと同視できるような例外的な場合に限り、雇用途中の試用期間の設定が許されるものというべきである。 原告は昭和五九年七月頃タクシー運転手として雇用され、雇用期間が中断されることなく、昭和六二年一月二一日以降もタクシー運転手として被告に雇用されることとなっていたのであるから、乗務員として採用されるにあたって、仮に、原告、被告間に試用期間を設ける旨の合意をしたとしても、その合意は無効なものというほかない。 被告は嘱託と乗務員では勤務時間割が異なるから、試用期間を設ける必要がある旨主張する。しかし、勤務時間割が変わることにより試用期間を設ける必要性が生じるというのであれば、労使交渉、その他により勤務時間割が変われば使用者は試用期間を設けることができ、その結果、労働者を容易に解雇することができるという結論にならざるを得ない。使用者は解雇したい労働者がいる場合には、勤務時間割を変更することにより容易に当該労働者を解雇できることとなる。このような結論が不当であることは明らかである。また、証人Aの証言に弁論の全趣旨を総合すれば、嘱託である間の原告の勤務時間割は一二日を一サイクルとするものであること、乗務員のそれは一三日を一サイクルとするものであることが認められる。右認定事実によれば、嘱託としての勤務時間割と乗務員としてのそれとの間にはさほどの差異がないことが窺われ、具体的にも試用期間を設ける必要性を認めることはできない。被告の主張は到底採用できない。 その余の点について判断するまでもなく、本件解雇は試用期間中の解雇としてではなく、通常の解雇としてその有効性を判断すべきものである。 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕 7 以上のとおり、原告は被告に雇用された昭和五九年七月頃からの約二年六か月間に合計六回の事故を起こしている。この回数は決して少ないとはいえないものである。この点で原告のタクシー運転手としての能力が万全のものとはいえないということはできないわけではない。しかし、この回数は決して多いということもできないものである。しかも、2、3の(一)ないし(四)の事故はいずれも物損事故であること、3(五)の事故は人身事故ではあるが被害の程度は小さいうえ、専ら被害者に責任があること、右各事故について原告はいずれも行政処分も刑事処分も受けていないこと等、軽微な事故ばかりであることに照らせば、これらを理由に原告を企業外に放り出すことになる解雇事由となりえないことは明らかというべきである。したがって、本件解雇が不当労働行為に該当するか否か等、その余の点を判断するまでもなく、本件解雇は無効である。 |