ID番号 | : | 05302 |
事件名 | : | 仮処分事件 |
いわゆる事件名 | : | 木南商車輌製造事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 就業規則における労働組合との解雇協議条項に反する解雇が無効とされた事例。 雇傭主は、解雇によって労働契約関係を消滅せしめるとか、争議手段として作業所閉鎖を宣言するとか等の場合は格別、労働契約関係が正当な状態においてある限り、労働者が適法に労務を提供したとき、これを受領する権利のみでなく、受領する義務あるものであり、正当な理由なくして受領を拒否し、反対給付である賃金支払をなすことによって責を免れるものではない、とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法413条 労働組合法16条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 就労請求権・就労妨害禁止 解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項 |
裁判年月日 | : | 1948年12月14日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和23年 (ヨ) 1005 |
裁判結果 | : | 申請認容 |
出典 | : | 労働民例集2号52頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕 被申請人とその従業員組合との間に締結せられている労働協約(疏甲第二号証)第六条には「会社は組合員を解雇せんとする場合は予め組合の同意を得るものとす、但し従業員服務規定に定める事由による解雇はこの限りでない」と規定し、右従業員服務規定に該当する就業規則第二十六条第六号に依ると、前記同条第四号の解雇は「労働組合との協議を得て之を行う」べき旨を規定する。この労働協約の規定と就業規則の規定との関係は甚だ明確を欠き、殊に就業規則にいわゆる「協議を得」とは如何なることを意味するか頗る瞹昧な用語であるがそれは一方において、就業規則で定めた「協議」の要件が労働協約で定めた「同意」を要件とする原則に対する特別乃至例外であることを考えると、組合の同意迄を要するものとは考えられないと同時に、他方において、被申請人、会社の経営協議会規定(疏甲第十一号証)第二条の規定の存することから見ても、単なる一片の通告をもつては足らず、少くとも組合の意見を徴し、互に相手方と見解を披瀝し合つた上両者の意見が合致しないときには経営協議会の協議に付さなければならないものと考える。 〔中略〕 被申請人は十月十一日組合に対し申請人等外三名の職場離脱の件について組合側の調査を求め、同人等に対する処分について回答を促し、同月十三日組合から被申請人に対し、調査の結果職場離脱の事実を確認する旨ならびに処分については寛大な処置を懇請する旨の回答があり、翌十四日被申請人から組合に対し懲戒解雇にすべきところ、会社都合による解職をなす旨通告したことを認めることができる。然しながら申請人等の行動が本来懲戒解雇処分に附すべき事由に該当しないこと前認定の如くであるから被申請人が会社の都合による解職という処置をとつたことは客観的には組合の意思を酌んだ結果といえないばかりでなく、解雇というような労働契約関係の消滅を来す労働者の一身上に最も重大な影響を与える事柄について、右のような手続のみをもつて組合との協議を得たとはいい難い。 〔労働契約-労働契約上の権利義務-就労請求権・就労妨害禁止〕 申請人等が賃金支払の請求権を有することは当然のことであるが、就労請求権については、被申請人は、仮に申請人等に従業員たる地位を認めても被申請人はその労務の提供を受領する義務あるものではないと争うので、この点について考えてみるのに、仮処分において労働者の就労請求権を認めるためにはその前提として雇傭主は、労働者の労務の提供ある場合これを受領する義務あるものと考える立場をとらねばならぬのであるがこの問題を解決するためには、先ず一般に債権者は履行の受領義務を負うか否かの問題を解決せねばならない。ところで債権関係が債権者債務者相互の信頼関係を基礎とし、債務の履行は、両者の一致協力によつてはじめて円満完全に成就せられることのできるものであることを考えるとき、債務者が適法に履行の提供をした場合、これを受領することは単に債権者の権利であるばかりでなく、義務であると考えることによつてはじめて妥当な解決を見ることができる。すなわち、債務者が適法な履行の提供をしたにも拘らず、債権者が正当な理由なくしてその受領を拒んだ場合には単に被申請人のいわゆる権利不行使としての債権者遅滞の効果によつて、債務者の側において債務不履行から生ずる一切の不利益の免脱、供託による債務の消滅、約定利息の発生停止、注意義務の軽減、増加費用の請求権発生等の効果を生ずるに止まるものでなく、受領拒絶自体一の債務不履行として、債務者の履行遅滞と同様の効果、詳しくいえば、債務者は受領遅滞を理由として損害賠償を請求し或は受領を催告して契約を解除しうるに至るという効果を発生せしめるものである。このことは一見債権者に過大の負担を帰せしめるように見えるかも知れないけれども決してそうではない債権者に受領義務があるということは、かの国民の公法上の権利が同時に義務であるというが如きとは同一ではなく、債権者に端的に権利の行使を義務付けるものではない。債権者が履行の請求権を放棄しようと思へば、任意に債務の免除をすることによつて債権の消滅をはかればよいのであつて、債権の存続を維持しながら、しかも債務者が適法に履行の提供をした場合に恣意にその受領を拒絶するにおいては、債権者は債務不履行と同一の責任を負わなければならないというのである。そして債務者の受領遅滞が債務不履行となるのは、かの権利不行使としての債権者遅滞が債務の故意過失を問わないのと異り、債権者にその受領遅滞について故意過失あることを要件とするばかりでなく、その受領せざることについて正当の理由のある場合にはこの効果を生じないものと解すべきである。このように一方において債権者遅滞の要件を重くするとともに、他方その効果としての責任を大ならしめることが債権者債務者間の衡平の点からいつて最も妥当な解釈であると信ずる。 さて、債権者の受領義務を右のように解するときは、雇傭主が労働者の労務の提供を受領する義務を有するか否かについて、労働関係法規に特別の規定があるが、或は労働契約関係の特殊な性格が債権法の右の原則を変更しない限りは、労務の受領は権利であるのみでなく、義務であると考えなければならないのであるが、労働関係法規にそのような特別の規定がないばかりでなく、労働契約関係のように特定人間の人格の継続的な関係として、売買其の他の非継続的契約に比して一層債権者債務者間の信頼を必要とする契約関係において、前記のような債権法の原則を強めこそすれ、弱める事情は毫も存しないのである。さすれば雇傭主は、解雇によつて労働契約関係を消滅せしめるとか、争議手段として作業所閉鎖を宣言するとか等の場合は格別、労働契約関係が正当な状態においてある限り、労働者が適法に労務の提供したとき、これを受領する権利のみでなく、受領する義務あるものであり、正当な理由なくして恣意に受領を拒絶し、反対給付である賃金支払をなすことによつて責を免れるものではないといわねばならぬ。勿論雇傭主は債務の免除をすることによつて労働者の労務提供の義務を消滅させることもできるし、又工場閉鎖を行うに至らなくとも、一部の職場の運転が経営困難の原因となつていて、その職場の運転を休止しなければ、経営の維持が困難となるような事情の下においてはその職場の労働者のみの労務の受領を拒絶するについて雇傭主の責任を阻却する事由があるといえよう。ところが本件の場合には、凡て右のような特別の事情が認められない以上、被申請人は申請人等の提供せんとする労務を受領する義務あるものという外ない。 次に被申請人は、仮に被申請人に労務受領の義務があるとしても、仮処分においては申請人等は賃金の支払を得れば足り、就労を求める必要がない、と争うのであるが、労働契約関係が前認定のような性質を有するものである以上申請人等が働くことによつてその報酬としての賃金支払を求めているのに、賃金のみを与えて申請人等の扶牛徒食を強いなければならない何等の理由もない。誠実に労働したいと申出る者は就労請求の仮処分を求める必要を有するものといわねばならぬ。被申請人の抗弁は採容できない。 |