全 情 報

ID番号 05310
事件名 解雇無効確認請求事件
いわゆる事件名 大阪陶業事件
争点
事案概要  組合役員として活発な組合活動をしていた者の解雇が不当労働行為とされ、当該労働者が属する労働組合が承認しても有効となるものではないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働組合法7条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 違法争議行為・組合活動
解雇(民事) / 解雇の承認・失効
裁判年月日 1951年5月26日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和25年 (ワ) 1824 
裁判結果 認容
出典 労働民例集2巻4号410頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕
 以上の事実を通観すると、組合の分裂、第二組合の結成について第二組合側の幹部と、被告会社の幹部との間に具体的に連絡なり、協議などがあつたとみとめる証拠はないが、第二組合側において自ら会社からの好意を自負し、強力な庇護を期待しており、被告会社の側では第一組合に対する強い反感と第二組合に対する強い支援の意向をもち、互にそのことを十分意識し合つていたことは争えないところである。こういう情勢のさ中にあり、とくに被告会社の社長等幹部が原告等第一組合の幹部に対してはげしい反感をもつた状態のもとで、前記八月七日発表の整理案が作成され、その基礎たる原告等の考課表ができているのである。原告等に対する前記採点なかんずく調和協力の採点にあたつて被告会社の工場長部長等採点者が原告等に対するその組合活動を通じての反感を織りこまなかつたと考えることは容易でない。もつとも、逆に原告等の勤務成績が優秀であつたというような証拠はない。かえつて、証人A、Bの証言および証人Aの証言により真正に成立したとみとめられる乙第五号証の三によると被告の主張するように、原告X1、X2が昭和二十四年七月二十一日および八月三日、勤務時間中被告会社の許可なく職場大会をひらき、他の従業員をもその作業から離れさせたことがあり、また原告X1は汽罐場の勤務であるが、夜間勤務中寝込んでボイラーの火を消してしまつたことがあり、その他原告等の勤務振りには、被告会社として数えればあれこれ不満な点があつたことはみとめられるが、昭和二十四年七月から八月頃は前記のように被告会社は従業員に対する賃金の支払をおくらせており、これについては組合は会社と種々交渉をしていた際であり、賃金不払のごとき労働者の生活に直接の脅威が加わつた事態の中にあつて職場が相当に混乱することは無理からぬところで、右職場大会のごときもその一つのあらわれにすぎないとみられるし、組合幹部たる原告等がその混乱に一役買つたとしても普通ならば、被告会社としても自分の方に責任のあることで大目にみねばならないところであらう。また原告X1のボイラーの火を消した過失はとがむべきであるが、証人Cの証言によると同原告の勤務振りはその組合活動の関係をのぞけば一般に特に悪かつたようにも思えない。つまり、原告等の勤務状態は欲をいえばきりがないが、組合活動の行きすぎとされる点のほかは他にくらべて特にとりたてて悪かつたとみとめねばならないような証拠はなく、組合活動の行きすぎとされる点については、前記のような賃金遅払にともなう職場混乱の一態様として被告会社としては大目にみなければならないところで被告会社としてもそのことはわかつていたとせねばならない。
 事実関係を以上のようにたどつてくると、原告等の解雇がその組合の役員たる地位ないし組合活動を理由としてなされたものとの推定はこれを動かすに足る解雇理由が他にあつたとはみとめ難いのでやはり維持するほかないとせねばならぬ。そして前段ですでに判断した点を除いて原告等の組合活動に正当でないものがあつたという証拠は別にないのであるから、被告会社の原告等に対する解雇は原告等が労働組合の正当を行為をしたことの故をもつてなされたものというべきで、労働組合法第七条第一号の禁止にふれ無効といわねばならない。
〔解雇-解雇の承認・失効〕
 なお、被告は昭和二十五年一月三十一日大阪地方労働委員会の斡旋で、原告等の属する第一組合との間に原告等の解雇について和解が成立し、組合は解雇を承認したので、原告等に対する解雇の効力はこれによつて確定したと主張するが、労働者の団結権はまず労働者個人の権利であつて、労働組合法第七条第一号はその団結権を労働者個人について保護することによつて労働組合運動を不正な侵害から守ろうとするものであり、これによつて個々の具体的な労働組合もその保護をうけることになるので、組合自体にも救済の申立をする権利になるとはいえ、労働組合がその救済を放棄したとしても、解雇された組合員たる労働者個人の権利はこれによつて影響を受けるものではなく不当労働行為たる解雇は、解雇された組合員の属する労働組合の解雇承認によつてその組合員について有効となるものではないと解せねばならない被告の右の主張はそれ自体理由がない。
 そして、被告会社と原告との間の雇傭関係についてはそのほかに終了原因として何も主張がないのであるから、現に継続しているものとするほかはない。