全 情 報

ID番号 05311
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本製鉄事件
争点
事案概要  占領軍軍事裁判所において、昭和二〇年二月附連合国総司令官指令第一号違反の罪により重労働二年の刑に処せられたことにより、「不正な行為をして社員の体面を汚し、その情が特に重いもの」にあたるとして懲戒解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 有罪判決
裁判年月日 1951年7月18日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和25年 (ヨ) 2429 
裁判結果 申請却下
出典 労働民例集2巻2号199頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-有罪判決〕
 思うにポツダム宣言の受諾によつて占領軍の命令の遵守を誓約した現在の我国に於て、占領軍の指令に違反することは許されず、これに違反する行為は違法な行為として国内法上も犯罪を構成するものとせられていることは今更云うまでもない所である(一九四五年九月二日連合国総司令官指令第一号第十二項、昭和二十五年勅令第三百二十五号)。そして占領軍の軍事裁判に付せられ、占領軍の指令違反の行為として有罪判決を受けたときは、その行為は犯罪の性質如何に拘らず、国内法上も違法な行為として取扱う外なく、かつ社会的にも信用を傷つける恐のある行為といわねばならない。従つてこれを本件就業規則第四十一条第九号の「不正な行為をして社員の体面を汚す者」と謂うを妨げない。申請人等はたとえ軍事裁判によつて有罪とせられた行為であつても、本件申請人等の行為のように、政治的信念に基く行動で所謂破廉恥犯に属しないものは、本件就業規則の「不正な行為をして社員の体面を汚す者」と云う条項に該当しないと主張する。本人の確信する主観的な立場からすれば、そうも考えられないではないが、これを客観的に見て現在の法秩序を害する点からすれば、他の犯罪と区別することができないから、申請人等の右主張は採用することができない。
 そして、申請人等が右判決によつて重労働二年の刑に処せられたことは、就業規則第四十二条第十五号の「前条各号に該当しその情が特に重い者」にあたると謂わざるを得ないから、被申請人が右条項を適用してなした本件懲戒解雇の意思表示は有効である。
 なお申請人等の主張するA外二名の事件に付ては、すでに懲戒解雇の条項に該当し懲戒権発生したとしても、これを行使すると否とは被申請人の自由であるばかりでなく、右事件の実状は被申請人主張のとおりであつて、申請人等の場合と相当事情を異にしていることが疏明されているから、これ等の者が懲戒解雇の処分を受けなかつたからといつて、逆に本件の行為が懲戒解雇に該当しないということはできない。