ID番号 | : | 05313 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 同和鉱業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 正当なロックアウト(作業所閉鎖)については賃金請求権は発生せず、また本件においては労働基準法二六条の「使用者の責に帰すべき事由」にあたらないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法26条 民法413条 民法536条2項 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / ロックアウトと賃金請求権 賃金(民事) / 休業手当 / 休業手当の意義 |
裁判年月日 | : | 1951年8月7日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和25年 (ワ) 6203 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働民例集2巻3号258頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金請求権の発生-ロックアウトと賃金請求権〕 一般に使用者が作業所閉鎖その他の争議行為によつて受領遅滞に陥つた場合受領遅滞或は履行不能を原因とする賃金請求を拒否し得るか否かの問題をいかに決するかによつて、本件請求の当否もおのずから決せられるものといわなければならない。 勤労者の団結権団体交渉その他の団体行動をする権利は憲法(第二十八条)で保障せられ、その正当な争議行為により使用者に与えた損害は使用者において請求できないことは労働組合法(第八条)の明かにするところである。労働関係調整法第七条は争議行為を規定するにあたり労働者の争議行為のみならず作業所閉鎖その他の使用者の争議行為を包含させているのであるが、使用者の争議行為については憲法、労働組合法その他の法律にその保障又は免責に関する規定はない。 而して、同盟罷業怠業等の労働者の争議行為は、その行為の性質上、その多くは、それ自体労働契約上の債務不履行となるか或は不法行為となるものとされるから、これらの行為を正当なる争議行為として争議手段に供し得るとなすためには、これによつて生ずる債務不履行或は不法行為の責任を免除する必要のあることは、当然のことと言わねばならない。これに反して使用者は経済的優者として労働者に圧力を加えることができるものであるが、その点はしばらくおき、作業所閉鎖のような使用者の争議行為は、それ自体直接には、労務の受領の拒否に止まり、受領遅滞の問題を生ずることはあつても、労働契約上の債務不履行となるものでなく、また特別の場合を除いては、不法行為となるものでもないとされるのであつて若しこれによつて生ずる責任の免除の有無について考察するとすれば不法行為や債務不履行の責任の有無についてではなく受領遅滞の責任の有無がその対象とせらるべきものと考える。けだし作業所閉鎖が使用者の殆んど唯一の争議手段に供せられるのは、実質上専ら労務の受領を拒否しこれによつて賃金の支払を免れんとするにあるものと解せられるのであつて、それがたまたま不法行為又は債務不履行となる場合においても相手方に対する不法行為又は債務不履行による圧力をもつて争議手段をなさんとするものとは解せられないので、作業所閉鎖においては、債務不履行又は不法行為の責任が免除されなくとも、受領遅滞の責任の免除される限り、その争議手段としての実質的効果は、これを喪わないものと考え得るが、受領遅滞の責任の免除されない限りたとい債務不履行又は不法行為の責任が免除されても、争議手段としての効果を期待し得ないものと考えざるを得ない。 作業所閉鎖の場合における免責につき、現行法が如何なる見地に立つかを見るに、前記の如く、作業所閉鎖を争議行為に包含させる規定をおきながらその免責については何等の規定をも設けず、他方労働者の争議行為についてはひろく免責の規定を設けていること、また、作業所閉鎖が前記の如く同盟罷業等と異りこれにつき債務不履行又は不法行為の責任を免除しなくとも、その争議手段たることを否定する結果とならないこと、作業所閉鎖にかような免責を認めることが却て、同盟罷業怠業等に比しより多くの保護を使用者に許す結果となる虞があるに反し、かような免責を認めないとしても、それが直ちに労使の交渉における対等の原則に反する結果となるとは考えられないこと等に鑑みるときは、作業所閉鎖その他の使用者の争議行為については、労働者の争議行為につき規定されている債務不履行及び不法行為の免責による保護を認めない趣旨のものと解せざるを得ない。然しながら、受領遅滞の責任については、これと同一に断ずることはできない。作業所閉鎖において、受領遅滞の責任を免除しないときは、その争議手段たることを否定するものであること前記の通りであつて、これは、作業所閉鎖を争議行為に含まれるものとした労調法第七条をもつて、作業所閉鎖を単に争議において行われる事実行為として指摘したものとし作業所閉鎖に労働法上の地位を与えることなく、緊急避難乃至正当防衛等の一般私法上の法理によつて受領遅滞の責任が免ぜられるだけで足りるとなすものであつて、勿論直ちにこれを理由のないものとは言えないが、現行法が労働者の争議行為の種類について特に限定せずしかも労働者の争議行為は単に労務の停止だけに止まらず、使用者の生産手段たる物的施設を利用して行う怠業坐り込みストその他各種各様であつて、労働者は広く争議手段選択の自由を有するに反し、使用者がこれら労働者の争議行為に対して、終局的解雇或は緊急避難等によつてやむを得ず行う作業所閉鎖等のごとき一に一般私法上許されたる措置以外に、労働法上何等の対抗的措置をとることを許されないとすることは、一般私法と異る団体的関係である労使間の争議を規律する場合においては、衡平を欠くものと言わざるを得ないこと、また、労組法第一条において労使間の交渉において対等であることを示していることに鑑みるときは、前記労調法第七条は、作業所閉鎖をもつて単に事実行為として指摘したに止まらず、これを同盟罷業その他の労働者の争議行為と同様に法律上の効果をもつ争議手段たることをも示したものと解せざるを得ない。かように作業所閉鎖を法律的にも効果を認められた争議手段と解する限り、その最小限の効果として少くとも受領遅滞の責任については、これを免除しているものと解せざるを得ないものである。 〔賃金-休業手当-休業手当の意義〕 もつともこの場合、原告の主張する通り関連職種の作業が可能であるとすればそれを停止するか続行するかは被告の任意であり、それを停止した点に労働基準法第二十六条にいわゆる使用者の責に帰すべき事由があるようにみえるが、その休業命令を受けた従業員が、争議を開始し又は開始しようとした労働組合の所属員としてその統制を受け、使用者の争議行為が当該労働組合の争議行為に誘発された正当な争議行為である限り、同条の適用を受けないものと解すべきである。けだしこのような場合に休業の責を負わすことは使用者の正当な争議行為に賃金支払義務の免責を認める前記意義を失わしめるからである。 |