ID番号 | : | 05323 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 帝国人絹事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 経歴詐称を理由とする懲戒解雇につき、不当労働行為に該当せず有効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称 |
裁判年月日 | : | 1954年1月7日 |
裁判所名 | : | 広島地尾道支 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和28年 (ヨ) 94 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働民例集5巻1号43頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕 本件解雇の意思表示を被申請人がなすに至つた決定的な要因をなしたのは、前記(イ)の点の認定による申請人の前歴詐称によるものか、又は右認定の理由によるものかの点について考えてみよう。 この点に関する疎明によつて一応認められる事実にもとずいて判断すると、被申請人会社が前歴詐称によつて懲戒解雇の処分にでた従前のいくつかの例からすると、昭和二十四年二月から昭和二十五年二月までの間のものでは、被申請人会社は前歴詐称について相当厳格と思われる態度をとつてきたことがうかがわれ、少くとも入社の採否を決定する経営者としての被申請人側にとつては、前記従前例のうちでは申請人の前歴詐称がもつともその入社について大きな障害となつたであろうことが予想される。したがつて、他の前歴詐称による解雇例と比較して、特に申請人に対する処分が苛酷であつたことは認められないし、かえつて申請人の場合、他に何等の事情がなかつたとしても右の比較においては、当然懲戒解雇に該当する性質のものであつたことがうかがわれる(尤も「前科」という前歴に対する正しい意味での社会的評価という面からの是非は別問題である)。申請人は自己の前歴詐称が情状においてそれ程重いものではなく、かえつてやむを得ない事情として憫諒するべきものがある旨主張するが、これは被申請人の反駁しているように、明らかに申請人の一方的な偏見であつて、経営者側の立場も考慮するとき、人と人との信頼関係に立つてはじめてその成立を可能とする労働雇傭契約の性質上、申請人の前歴詐称は相当程度の高い背信行為である。しかも申請人がこれを秘したのは、もし真実を表明したならば被申請人会社えの入社が可能でなかつたであろうことを予見しての故意に出たものとうかゞえるから、すでに契約成立の当初において相手方を欺くもので、好ましくない行為であつたことは否定できない。そして被申請人会社が本件解雇にでた経過も、それが申請人の前歴詐称を発見するに至つた端緒において被申請人側に責められるべき理由があつたかも知れないにしろ、本件解雇の意思意示をなすに至つたのは、その後の慎重な調査をとげた結果、申請人の前歴詐称が明確になつたときはじめてなされたものであつたこと、そして右の意思表示は他の処分例に比較して、仮りに申請人側にその主張のような事情がなかつたとしても、当然それだけで懲戒解雇に価するような事由に該当するものであつたこと等の事情を綜合すると、本件解雇の終局的、決定的な原因をなしたのは、結局申請人の前歴詐称にもとずくものであつたものと認められる。したがつて申請人主張のような理由が本件解雇の一部の理由になつていたとしても、被申請人が前歴詐称をたんなる表面上の理由として仮装したものであるということはできない。もつとも、右の比較の対象とした解雇の各処分例のうちには、その解雇が或いは不当労働行為に該当するのではないかという理由でその効力に疑念のもたれるものも一、二ないではないが、仮りにそれらの該当例を除いたその余の処分例との比較、並びにそれを離れた客観的な評価にもとずいても、本件解雇の場合に関しては前記の判断を異にするものではない。 そうとすれば、本件解雇の決定的要因が前記のとおり正当な就業規則の適用にもとずく処分結果である限り、本件解雇は正当になされたものというべきであるから、この点に関する申請人の主張もまた理由がないものといわねばならない。 |