ID番号 | : | 05331 |
事件名 | : | 災害補償審査決定取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 和歌山労災補償審査会事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 災害補償に関する労災補償審査会の決定につき取消訴訟が提起された事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法85条 労働基準法86条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 審査請求との関係、国家賠償法 |
裁判年月日 | : | 1954年4月26日 |
裁判所名 | : | 和歌山地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和28年 (行) 4 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働民例集5巻2号178頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-審査請求との関係、国家賠償法〕 行政訴訟によつて取消又は変更を求め得る行政処分であるためには、関係当事者の権利義務に法律上の効果を及ぼす行政処分であつてこれが取消又は変更をなすにつき法律上の利益を有する場合でなければならない。 さて労働基準法第七十七条は使用者の労働者に対する業務上の負傷等の場合の障害補償義務を定めると共に、同法第八十五条第一項は、補償の実施に関し、労働者が使用者とその主張を異にし、使用者の補償の実施に関し異議があるときは、労働者は第一審として管轄行政官庁である労働基準監督署長に対し審査又は事件の仲裁を請求することができると定めているが同法第八十六条第一項において、もしこれに対し不服のある者は、更に第二審として労働者災害補償審査会の審査又は仲裁を請求することができる旨定めて居り、又同法第百十九条第一号によれば、使用者において右傷害補償義務に違背するときはこれに対して一定の刑罰をさえ科することを定めているけれども、だからといつて、そのことから直ちに労働者災害補償審査会の審査又は仲裁が抗告訴訟の対象となり得るものとなす訳にはいかず、これが決定をなすためには民事訴訟制度や、労働基準法の他の規定等を勘案して考えなければならない。 元来当事者間の権利義務の存否につき法律を適用して最終的に当事者を拘束する判断を下すべき職権を有する国家機関は司法裁判所の外にはなく当事者が傷害補償の権利義務の存否に関し、最終的な判断を受けるためには結局民事訴訟によらなければならないことは同法第八十六条第二項の規定に照らして明かであるが、これを同法第八十五条第一項、第八十六条第一項の規定等と対照して考えてみると、労働者の災害補償の実施に関する行政官庁又は労働者災害補償審査会の審査又は仲裁の制度はもともと災害補償の内容や方法についてはとかく当事者間に紛争が多く当事者が民事訴訟による解決を得るためには多額の費用と長期の日子を要する状態にかんがみ使用者に比べ一般に経済的弱者の地位にある労働者を適切に保護するためには、紛議をできうる限り迅速に解決するよう図らなければならない必要があるので、行政官庁である労働基準監督署長や、又は労働者災害補償審査会をして、事実関係につき必要な調査をなした上、適切な審査又は仲裁をなさしめ、当事者をして自発的にこれを尊重することによつて、民事訴訟の提起に至らない以前において、可及的に多数の紛争を円満に解決せしめようとの意図の下に設けられたものであり、したがつて右審査又は仲裁は、当事者のこれによる自発的な解決の場合の外何等の法律的効果をも当事者に及ぼす性質のものではなく、当事者が災害補償に関する紛議につき、法的拘束力をもつ最終的決定を得ようとするならば、ひつきよう民事訴訟により司法裁判所の裁判による確定をまたなければならないが、ことこゝに至るまでの前段階においてできうる限り当事者の円満な解決を図る目的をもつて民事訴訟を提起するにはその前提として、必ずまず労働者災害補償審査会の審査又は仲裁を経なければならない旨を定めたものと解せられる。 さすれば被告のなした本件審査決定は、原告と訴外Aとの間の障害補償の権利義務につき別に法律上の影響を及ぼすべき行政処分とはいい得ないから、行政訴訟によつてこれが取消又は変更を求め得る対象となし得ない。 |