全 情 報

ID番号 05334
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日本ビクター事件
争点
事案概要  組合の機関誌に会社の経営に対する中傷があったとして組合の執行委員長等が懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法7条1号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
裁判年月日 1954年7月19日
裁判所名 横浜地
裁判形式 決定
事件番号 昭和29年 (ヨ) 475 
裁判結果 却下
出典 労働民例集5巻4号383頁/労経速報153号5頁/ジュリスト66号47頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 被申請人会社は右各記事中
 (イ) 労働不安を醸成するもの
 (ロ) 経営者に対する誹謗中傷
 (ハ) 会社の施策職制に対する揶揄讒謗
 (ニ) 会社の信用失墜、業務妨害、名誉毀損
 (ホ) 無根の事実
 (ヘ) 経営の対内対外関係との離間のための中傷
 (ト) 親会社の誹謗
 (チ) 組合と妥結済の事項に対する不当攻撃文
 を含んでいるから不当な記事であると主張するので、右各点について判断する。右(イ)については、本件各記事中組合員をして不安の念を生ぜしめる虞のある箇所なしとしないけれども、各記事の意図するところが前記被申請人会社の不当な態度を除去せんとするにある以上その不当に論及するのはやむを得ない道理であつて、労働不安を醸成せんがためのみに書かれたのではなく、労働条件の維持改善、労働者の経済的地位向上を目的として書かれたものが、たまたまその様な内容を含んでいても、それが為に不当な記事と為すことは出来ない。同(ロ)及び(ハ)について、被申請人会社の「経営者に対する誹謗中傷、会社の施策職制に対する揶揄讒謗」として主張する箇所は、必ずしも特定者に対する攻撃としての客観的表現を有しない部分もあり、又その他の箇所において明らかに経営者に対して向けられた攻撃であつても単に比喩的表現であつて、とりたてて咎むべき程度に至らぬものもあり、その他その箇所あるが為に前記認定の様な目的にも拘らず、その記事全体を不当ならしめる程強度な誹謗中傷或は揶揄讒謗はこれを認めることができない。同(ニ)について、被申請人会社が「会社の信用失墜、業務妨害、名誉毀損」として指摘する箇所のうち「A会社ラジオに今迄より質の悪い真空管を使うのは何故か」という趣旨の箇所以外はいずれも具体的な事実の摘示を欠いているから、信用失墜、業務妨害、名誉毀損等に当らぬと言わねばならない。又右真空管云々の点は疎明資料によれば現在被申請人会社においてラジオ部品として使用しているB会社真空管は従来使用されていたC会社真空管よりも品質が劣悪であると、少くとも一般ラジオ小売商等業者の間において理解されていた事実が一応認められるので会社に対する名誉毀損と言い得るか否かについて疑あるのみならず、前記認定の様に該記事の意図が会社生産品の品質の低下を憂え、これを是正して会社の発展を期待し、よつて以て労働者の経済的地位の向上を計るにあると認められる以上、組合活動としての側面から見た場合には該記事を不当なりと為すことはできないと言わねばならない。同(ホ)について、被申請人等が本件各記事中無根の事実として指摘する箇所中には具体的な事実の摘示を含むものと然らざるものがある。具体的な事実の摘示を含まない箇所については無根の事実という非難が当らないことは勿論である。又具体的な事実の摘示を含む箇所については、そのすべてについて、その様な事実が実際あつたという事の疎明が為されている訳ではないが申請人等が組合員の立場から見て、その様な事実ありと考えることが無理ではないという事態の存したことは疎明資料を通覧してうかがわれ、従つて特に疎明のない限り申請人等がそれ等の記事を執筆又は掲載する際に故意に事実をまげたということは認めることができない。然りとすれば、かりにそれら摘示された事実が実は無根であつたとしても、その点のみを捉えて、それ等の記事が不当であると為すことはできないと思われる。同(ヘ)について、被申請人会社が該当箇所として指摘する部分がことさら経営の対内対外関係との離間を意図したものであるとは文面のみから推定することはできないし、他にかかる意図を推測せしめるだけの疎明資料もないので、申請人等がそれらの箇所を含む記事をその様な意図を以て執筆し又は掲載したと認定することはできない。同(ト)について、親会社を誹謗することは法的には第三者を誹謗することと同様であるから、その様な箇所を含んでいたとしてもそれがために当該記事を執筆し又は掲載することが組合活動として不当であるとは言えない。同(チ)について会社及び組合間に交渉が妥結した場合において、その後何等かの事情の変更しない限り、組合が右妥結の結果に拘束せられ、同一事項につき会社に対し要求を為すことができないとしても、組合意思生成のための内部的意思発表の場であるところの組合機関紙において個々の組合員が右妥結済の事項につき会社側を攻撃することが許されないという道理はない。被申請人会社が指摘する事項については妥結済であることの疎明のないものもあるし、又妥結済であるとしてもその事項について会社側を攻撃することが不当であるといえないこと前述の通りであるから本件各記事はいずれも不当なものとすることはできない。
 以上述べ来つたところで明らかな様に本件Dニュース掲載の各記事はE労働組合組合員の労働条件の維持改善及び経済的地位の向上を意図したものであつて、各記事のうち局部的に措辞妥当を欠くものがあるとしても、それぞれの全体を通読すれば被申請人会社の主張する様な不当は認められないから、右各記事を執筆又は掲載した申請人等の行為は正当な組合活動であつたということができる。そうすると被申請人会社は結局正当な組合活動をしたとの理由を以て申請人等をそれぞれ解雇又は休職の処分に附したこととなり、右は労働組合法第七条第一号に反する無効な処分といわねばならない。故に組合専従者であることについて当事者間に争のない申請人保田を除くその余の申請人等はいずれも被申請人会社より解雇又は休職処分を受ける前と同等の賃金の支払を受ける権利を有するものというべきである。