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ID番号 05355
事件名 解雇無効確認請求控訴事件
いわゆる事件名 朝日新聞社事件
争点
事案概要  マッカーサー書簡に基づく解雇につき、同書簡にいう共産主義者またはその支持に該当しない者を解雇することは、右指令の履行の範囲に属しないとした事例。
参照法条 労働基準法3条
労働基準法2章
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
裁判年月日 1955年6月29日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和27年 (ネ) 2162 
裁判結果 控訴棄却
出典 労働民例集6巻4号501頁/時報54号3頁/東高民時報6巻8号179頁/タイムズ55号37頁/労経速報178号10頁
審級関係 一審/東京地/昭27.12.22/昭和26年(ワ)2806号
評釈論文 労働経済旬報271号27頁
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 ただ平和条約発効後日本国が完全な主権を回復した今日、行為時(本件にあつては前示マ書簡による指令及びこれにもとずいてなされたという解雇の意思表示のあつた時)にいかなる憲法外の法的規範が横行していても、裁判時の我が国法に照らして前示指令の効力、ひいて本件解雇の効力を判定すべきであるとする被控訴人等の主張につき、一言する。
 本件においてはわが国がまだ完全な独立主権を回復しなかつた被占領期間中において、前示連合国最高司令官の指令にもとずいてなされたという解雇の意思表示の効力が、争となつているものであつて、かかる指令がなお効力を有するものとして、平和条約発効後これにもとずいてなした解雇の意思表示の有効無効が、争の対象となつているものでないことは極めて明白であるから、右指令にもとずく本件解雇の意思表示の効力を判断するには、右解雇の意思表示のあつた当時(行為時、即ち占領期間中)における前示指令のわが国法上の効力如何を前提としなければならない。一般に民事上の法律行為の有効無効については、他に特別規定のない限り行為当時の法令に照らし判定すべきことは、民事実体法規適用の根本原則であつて、この点後記刑事訴訟において犯罪後の法令により刑が廃止された場合に、免訴の言渡をなすべきものとされているのとは全然その根拠を異にする。所論引用の最高裁判所の判決中四裁判官の意見によれば、昭和二十五年六月二十六日附及び同年七月十八日附連合国最高司令官の指令の内容は憲法第二十一条に違反するとせられ、政令第三二五号もまたこの指令に対する違反を罰する限りにおいて違憲であつて、平和条約発効と共に失効したもの(占領中は憲法外において法的効力を有していたもの)とし、右政令違反被告事件については原判決後の法令により刑の廃止があつた場合に準じ、免訴すべきであると謂うにあつて、前示指令の内容が日本国憲法第二十一条に違反し、少くとも平和条約発効後の今日その効力を認むべきでないとする点について右判決を引用しているものと解されるが、刑事裁判において前示の場合、裁判時(平和条約発効後)のわが国法に照らし前示指令、ひいてこれに関する政令第三二五号の違憲無効を理由として、免訴の言渡をしているのであるから、民事訴訟においても裁判時の、わが国法に照らし前示指令の効力を判定した上で、これにもとずいてなした本件解雇の効力を判断すべきであると主張するのであれば、それは聊か見当違いであろう。なお憲法違反に関する限り民事訴訟においても、裁判時の法令に拠るべきであるとする論も首肯できない。
 要するに本件においては、問題となつている解雇の意思表示のあつた昭和二十五年七月二十八日及び同年八月一日当時における前示指令の、わが国法上の効力如何を前提として、本件解雇の効力を判断すべきことは疑のないところである。