全 情 報

ID番号 05357
事件名
いわゆる事件名 芳野金属事件
争点
事案概要  日々雇い入れられる者が一カ月を超えて引き続き使用されるに至った場合につき、予告なしに解雇することは許されないとして、解雇予告手当および附加金の支払が命ぜられた事例。
参照法条 労働基準法21条
労働基準法114条
体系項目 解雇(民事) / 解雇予告手当 / 解雇予告手当請求権
雑則(民事) / 附加金
裁判年月日 1955年9月10日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和30年 (レ) 89 
裁判結果 変更
出典 労働民例集7巻2号414頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇予告手当-解雇予告手当請求権〕
〔雑則-附加金〕
 控訴人が金属熔接の事業を営むものであつて、被控訴人が昭和二十八年十月十五日から同年十二月二十六日まで毎日雇傭されたところ、同月二十六日予告なしに解雇された事実は当事者間に争いがない。
 被控訴人は期間の定めなく雇い入れられたものであると主張するけれどもこれを認むべき証拠がない。
 そこで、予備的請求原因につき考えるに、被控訴人が右期間控訴人に日々雇い入れられたことは当事者間に争いがないのでこの事実によれば、被控訴人は控訴人に日々雇い入れられ一箇月を超えて引続き使用されたものと認むべきである。然らば被控訴人は労働基準法第二十一条但書にいわゆる日々雇い入れられた者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合に該当し、同法第二十条第一項により予告なしに解雇するには三十日分以上の平均賃金の支払をなす義務を負うものといわなければならない。
 控訴人は昭和二十八年十一月十四日に被控訴人に対して明日は雇い入れない旨告げた事実があるから、継続使用状態が中断し一箇月を超えて引き続き使用したことにはならないと主張するが、同法第二十一条但書に一箇月を超えて引き続き使用というのは、日々雇傭契約を締結しながらその使用関係が一箇月以上継続的に存在した事実を指すのであつて、日々の雇傭関係が一箇月以上存続するという客観的状態の存在をもつて足り、当事者においては使用関係を存続させる意思即ち翌日も引き続いて契約を締結する意思を必要としないものと解すべきであるから、その意思のないことを表明した場合でも、その翌日使用関係の存在したときは右にいわゆる引き続き使用に当るものというに妨げない。従つて控訴人の右主張は理由がない。
 次に、控訴人は本件解雇に至つたのは経済界の変動というやむを得ない事由によつて事業の継続が不可能となつて解雇したのであるから同法第二十条第一項但書により解雇予告手当支払の義務がないと主張するが、右条項にいうやむを得ない事由とは、天災事変と例示してある如く、これに類する不可抗力の場合を指すものであつて経済界の一般的不況の如きは天災事変と同視すべきものではないからここにいうやむを得ない場合に該当しないものと解するのが相当である。
 従つて控訴人の右主張も理由がない。
 以上の次第で、控訴人は被控訴人に対し労働基準法第二十条第一項本文に基き解雇予告手当支払の義務があるところ、被控訴人の三十日分の平均賃金が金一万円であることは控訴人の争わないところであるから、控訴人は被控訴人に対し右金員及びこれに対する本件支払命令送達の翌日たること記録上明らかな昭和二十九年十一月二十七日以降完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務あること明らかである。よつてその支払を求める請求を認容すべきであつて、これと同趣旨の原判決は相当であり本件控訴は理由がない。而して、当裁判所は被控訴人の申立に基き労働基準法第百十四条により控訴人に対し未だ支払われない右解雇予告手当金一万円と同一額の附加金の支払を命ずるのが相当であるから、被控訴人の当審における拡張部分の請求は理由がある。