ID番号 | : | 05358 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 四国電力事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 違法な争議行為を理由とする懲戒解雇につき、懲戒解雇に該当する行為とまではいえないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動 |
裁判年月日 | : | 1955年10月10日 |
裁判所名 | : | 高松地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和30年 (ヨ) 132 134 |
裁判結果 | : | 申請認容 |
出典 | : | 労働民例集6巻5号694頁/労経速報190号2頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 討論労働法49号33頁/労働経済旬報283号20頁/労働経済判例速報195号13頁/労働研究96号2頁 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕 そこで、右の点を前提としながら、本件各懲戒解雇が果して懲戒解雇権の正当な行使であるか否かについて考えてみよう。先ず、この点を判断するについて何よりも注目しなければならないことは、会社が懲戒原因として指摘している申請人らの行為が、前記のとおり、すべて労働争議中になされたものであることである。およそ、労使間に労働争議が発生し継続している期間内においては、使用者と労働者との間に存している一般的な通常の信頼関係は、一時的に破綻して消滅しているものというべく、しかも、その争議行為が、本件におけるように、労務提供拒否ストである場合においては、その期間中、使用者の労働者に対する業務上の指揮命令権は、一時的に麻痺して停止されている状態であると解さなければならないのであつて、その際、仮に、使用者が労働者に対して、労務を提供すべき旨の業務命令を発し、或はスト中止乃至ストの効果を減殺するような内容を有する業務命令を発したとしても、労働者としては、それらの業務命令を無視した上、所属組合の指令に従い、組合上部機関の指揮のままにストを続行し、或はストの効果を減殺されないように所謂「ピケツト・ライン」を張り、若し何人かが「スト破り」的な行為をなさんとする場合においては、相当な程度においてこれを阻止しようと努めることは、組合員たる労働者において当然なすべき義務の履行であるといわなければならない。そして、申請人らの行為中前記の業務妨害的行為が、いずれも、同人らが、ストを実施せんとし、又は実施したストの効果を維持するために、会社側関係者のスト実施を妨げ、又は実施せられたストの効果を減殺しようとする各行為を、それぞれ阻止したものであることは、その行為自体によつて明白であるところ、その阻止の方法、態様が、労働法上許された相当な程度である限り、所謂正当な行為として、民事上も刑事上も何らの責任がないわけであるから、会社においても、それらの行為を以て懲戒原因となすことの許されないことは当然である。しかしながら、申請人らの阻止行為が、相当な程度であつたか否かは、極めて難しい問題であつて、現に一部の刑事裁判所においては、相当な程度を越えたものであると認めて、各行為者にそれぞれ罰金刑を科したことは前記のとおりであるが、それらの判決は未確定であるから、その点に関する問題が終局的に確定しているわけではなく、又、他の刑事裁判所においては、同様な事例について、相当な程度を越えていないと判断してもいるわけであるから、刑事的見地からしても、申請人らの行為が果して、相当の程度を越えていることにより、業務妨害罪を構成するか否かは、現在のところかなり疑わしいものであるといわなければならない。しかし、本件各懲戒解雇処分の違法性を判断するについては、それらの行為が、刑事上業務妨害罪を構成するか否かということは、格別重要な意味合をもたない。従つて、仮にそれらの行為が刑事的見地から業務妨害罪の成立を肯定されるような結果を生ずるとしてもそのことから直ちに、当該行為を以て、その行為者に対する懲戒解雇の原因となすに足る正当な事由であると考えることは、許されない。寧ろ、反対に、それらの行為が、すべて争議中という異常な事態の下において、偶発的且つ瞬間的になされた些細な行為であつて、刑事的に考えてみても、せいぜい、罰金三、〇〇〇円乃至五、〇〇〇円に相当するような軽微な事犯であるとすると、それらはいずれも懲戒解雇の原因となすに足らないものであると解するを相当とする。蓋し、それらの行為は、すべて大局的にみて会社の正常な業務運営を阻害したわけのものでもなく、又、その行為の性質上、会社における使用者と各行為者との間の平常時における正常な信頼関係をさまで破綻せしめるような重大な事柄ではないと看做されるからである。このような意味において、会社が、申請人X1、同X2、同X3、同X4ら業務妨害的行為を現実になした者に対して、その行為を理由として懲戒解雇処分をなすことは、許されないのみならず、又、申請人X1、同X5、同X6ら右争議行為を企画指導した者に対しても、そのことを理由として懲戒解雇処分をすることはこれまた許されないものといわなければならない。従つて、会社が申請人らに対してなした各懲戒解雇処分は、その余の点について考えてみるまでもなく、この点において既に違法であり無効であるといわなければならない。 |