ID番号 | : | 05361 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 尼崎製鉄事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 退職願の提出につき、反省の態度を表すためにしたもので心裡留保にあたり無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法93条 |
体系項目 | : | 退職 / 退職願 / 退職願と心裡留保 |
裁判年月日 | : | 1955年12月1日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和30年 (ヨ) 432 |
裁判結果 | : | 申請一部認容 |
出典 | : | 労働民例集6巻6号1166頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔退職-退職願-退職願と心裡留保〕 (3) 以上のごとく疎明された事実関係を綜合すると、債権者等は、上司A次長から自己の行為に対する責任を問われ、辞表提出を迫られたことを甚だ心外に考えたが提出された辞表を受理することはないという同次長の言明を信じた結果退職願に及んだものであつて、右は、その真意に基くものでなかつたと一応推認せざるを得ない。債務者は、債権者等の所為が、著しく事業場の規律を乱したものとして、債務者会社の就業規則上懲戒解雇に相当する非行であり、債権者等も、深く自省の上退職願に及んだものであるから、それが真意に基かぬ筈はないと主張する。しかし、債権者等の前記上申書提出行為が、当該目的を達するための最善の方法であつたかどうかはしばらくおき、その動機が債務者主張のごときものであつた事実は、本件の疎明資料からにわかに断じ難いのみならず、かりにしかりとするも少くとも、客観的には職場秩序の維持を職責とする一警備係員の不当な行為を指摘することにより、債務者会社の利益を図る行為である以上、これをもつて債権者等につき債務者会社の定める懲戒解雇の事由に該るものとはいえない。のみならず、前記B、Cの各証言、D本人尋問の結果に照し信用できない疎乙第一、二号証の各一、二を除き、債権者等自身が懲戒解雇されねばならぬような非行をしたものと考えていたことを認め得る疎明資料はない。やはり債権者両名には退職の真意がなかつたと一応認めるのが合理的であるという外ない。更に前認定のとおり、債務者会社代表取締役は、債権者ら十一名が「辞表を提出するほどの自省が必要である」との意向をA次長に洩らした結果、同次長において「受理される心配はない」と明言していた以上、債務者会社代表取締役は、債権者両名の辞表をA次長を介し受け取つた際、そこに表明された辞意が本心でないことを知つていたか、少くとも知り得べき状態にあつたと一応推認すべきものである。 (4) してみれば、債権者両名の退職願の意思表示(雇傭契約合意解除の申込)は、心裡留保により無効であるから、それが有効であることを前提として、これに対してなされた債務者の『依願退職』の発令(同解除の承諾)は何等の効力なく、従つて、両者間の雇傭契約が合意解約により消滅したものとは認め難く(債務者が債権者両名を一方的に解雇したことの主張及び疎明はない。)、債権者両名は、なお債務者会社の従業員たる地位を保有するものと、一応断ぜざるを得ない。 |