全 情 報

ID番号 05362
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 犬谷重工業事件
争点
事案概要  作業時間中無断で休憩睡眠をしたこと等を理由とする懲戒解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
裁判年月日 1955年12月13日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和30年 (ヨ) 4015 
裁判結果 申請却下
出典 労経速報195号2頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
 申請人は本件懲戒解雇の理由とされたような事実は存在しないから、本件解雇は解雇権の濫用であると主張するが、疏明によれば本件解雇にいたる経過は以下の如くであることが認められる。即ち
 会社は昭和二十九年十月十五日たまたま会社に来社したA株式会社富山工場長から会社の同工場に対する鋼塊供給量が極めて不足しているから緊急に生産対策の会を開催して貰いたいとの要請があつた結果午前十時から羽田工場において臨時生産合理化委員会を開催し討議したところ、丙勤の作業振りが休憩が多く且つ睡眠をなす者もあつてこれが生産の障碍の一つになつているとの結論に達し、この作業振りを昼間の他の二勤務同様に向上させるため同日直ちに作業規律の確保と能率向上の実践に関する業務命令を発することに決定し、即日会社常務取締役の名において「丙勤に於ても甲、乙勤同様の作業規律の確保と生産能率を維持し、いやしくも濫りに休憩をとり又は睡眠をなすが如きことのないよう即日之を改めるよう命令する。」との趣旨の業務命令が文書により発せられた。申請人の属する原料係乙組は当日丙勤であつたところ、同組の班長Bが欠勤したため、この業務命令は甲組班長Cから当日の作業開始直前である午後十時頃に口頭で示達された。然るに、この示達をうけた申請人は右Cに対し「そんな寝てもいけないなんて規則はない。」「労働基準法によつて寝てもいいということになつているんだから寝てもいいじやないか。」などと難詰し、Cはこれに対し「日本で一、二を争うD会社でさえ三交替勤務で、就寝は許されていないんだから自分としては就寝は許されないと思う。」などと反駁し互に激論した。Cが帰宅した後、当夜は乙勤の者がバック全部に原料をつめてあつたので差し当り作業すべきことがなく原料係乙組工員は工員詰所において休憩していたが、その間申請人は同僚工員を相手に約一時間位にわたつて労働法などの話をしてきかせた。そのうち申請人は「三時間は労働法上寝られるのだから、もし会社が文句をいつたら勤労課に交渉する。」「僕が責任を持つから皆寝ようや。」などといつて同僚工員に就寝を勧め当夜乙組を指揮する班長代理Eの指示を受けることなく工員詰所を出て一階に降り同僚に卒先して蓄熱室のそばで叭などの上に横臥、就寝したので、F、G、Hら同僚も次々に下に降りて就寝した。一方、原料係甲組、乙組、丙組の工員を監督する伍長Iが十月十六日朝七時十五分頃会社に出勤し、丙勤の作業場を見たところ、現場には叺や藁屑、煉瓦などが散乱し前夜横臥就寝した形跡が瀝然と残つており、原料入れのバックには全部原料をつめて甲勤に申し送りすべきに拘らず、バックの半分は空で乙組の者が作業を怠つていたことも明らかであつたので、当夜の責任者乙組班長代理Eに詰問したところ、同人は申請人らの右行動を報告したのでIはこれを会社に報告した。会社は同日午後一時より諮問機関たる懲戒協議会を開き、その決定を経て申請人を懲戒解雇することに決定したが、労働基準監督署に解雇予告除外認定を申請し認可を受けていると日時を要するので解雇予告手当を支給して即時解雇することとし、同日は申請人は丙勤であり翌十七日は日曜日であつたのでいずれも通告ができず、申請人が甲勤となつた同月十八日会社羽田工場人事係長から申請人に懲戒解雇の通告をなした。
 右認定に反する疏明は信用できない。
 以上の事実を認めることができるのであつて、右事実によれば申請人は作業開始直前無断で休憩睡眠をなさず誠実に作業を遂行すべき旨の業務命令を受けたに拘らずこれに従わず、かえつて反抗的所為に出て職場の秩序を紊したものといえるから、会社の従業員就業規則第百二条第四号「職務上の指示命令に従わず職場の秩序を紊したり紊そうとしたとき」に該当し懲戒解雇に値するといわねばならない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 申請人は、更に、本件解雇は右条項本文但書「但し情状によつて出勤停止又は減給若くは降任に止めることがある」との規定にも拘らず申請人の情状を無視して解雇の挙に出たもので、解雇権の濫用であると主張するので申請人の情状について判断しよう。
 疏明によれば、申請人の属する原料係乙組の班長Bは昭和二十九年九月頃丙勤に際し酩酊して就業時間中断続して睡眠をとるという事故を起したが、この場合は就業規則第百二条但書の適用によつて単に出勤停止の懲戒処分にとゞまつた事実、並びに会社で丙勤の際睡眠したことにより解雇されたのは申請人が最初であつた事実が認められる。
 しかしながら、申請人の前記所為は被申請人会社が当時会社の業績が振わぬため丙勤の従業員の作業規律の確保につきつよい関心を示し当日業務命令を示達した直後であるばかりでなく、同僚工員に卒先して敢行したものであつて、右は会社の指示命令に対する反抗的態度の徴表というべきであるから、前記Bの事例などに比するならばはるかに重い情状にあるといわねばならない。一方申請人の平常の勤務態度についてみるも疏明によれば申請人が臨時工として雇傭されて以来本件事故に至る六カ月間、職制の目の届かぬ場合には作業を怠つたり、また、自分は作業をせずに手を後に組んで同僚工員の作業するのを傍観していたり、とにかく作業に不真面目である上、右の如き勤務態度につきI伍長から注意を受けたにも拘らず、依然としてその態度が改まらなかつた事実が認められる。
 かかる場合、申請人には前記但書を適用して軽減すべき情状があるとは認められず、申請人の主張は理由がない。